2021.11.18 Thu.

なぜ『UXグロースチーム』が必要なのか?後編

2021.11.18 Thu.

2020年10月12日にビービット主催のUX企画力向上セミナー『なぜグロースにUXチームが必要なのか? データ・AIによる顧客体験の発想と共有』をオンライン開催しました。第一部では書籍『アフターデジタル』の著者であり当社東アジア営業責任者である藤井が、第二部では当社佐藤が登壇しました。この記事では、第二部で佐藤がお話しした内容『UXグロースチームに必要な業務フローとスキルとは?』の一部を読むことができます。 第一部の記事はこちら▶︎なぜ『UXグロースチーム』が必要なのか?前編

この記事のまとめ

  • 1. 成功するUXグロースの業務フローには「型」がある。
  • 2. グロース業務で伸び悩むのは、「分析」フェーズで「ユーザ状況の理解」が不足していることが理由。この不足がチームに問題を生む。
  • 3. うまく進めるコツは、「分析」フェーズを「ビジネス分析」と「ユーザ分析」の2つに分けること。
  • 4. ユーザ分析は「誰と行うか」が重要。個人ではなく、部門横断型のチームで行う。
  • 5. グロース業務の推進には「解くべき課題を定義するスキル」と「改善案を立案するスキル」で必要。1つずつ伸ばしていくことが大切。
  • 6. グロース業務フローを定着させ、グロースを加速するためには、「UXグロース方法論」を小さな領域で試し、明確な成果を出すことから始めるべき

UXグロースチーム化に必要な業務フローとスキルとは?

これから、第一部で藤井がお話したUXアップデート業務やUXグロースチームの活動に関して、実際にどのような業務フローでそれを実現していくのか、あるいはその業務フローを遂行する上で直面しがちな壁やどんなスキルが必要なのか、についてお話ししていきます。

グロース業務が伸び悩んでしまう原因

一度プロダクトやサービスを作った後にお客様のペイン・課題を発見し、継続的にそれを改善し続けるというような業務、いわゆるグロース業務に関して、「なかなかうまくいかない」「伸び悩んでしまう」というお話をよく伺います。
この「伸び悩む」とは、どういうことなのかをまず解説していきます。

よく伺うのは、
「新規のお客様数は、変な話、広告を打って伸ばすことはできる。ただ、そのお客様に長く使い続けてもらえない。結果的に1ユーザ当たりの収益がなかなか伸びない。」
というお話です。

1ユーザ当たりの収益を増やすには、(1)打つ施策の数や改善の数を増やすアプローチと、(2)1つ1つの改善幅を増やすアプローチがあると思います。

この2つで言いますと、特に後者の(2)改善を繰り返す一改善あたりの改善幅を高める、ここが「なかなかうまくいかないんだよね」というお話を伺うことが非常に多いです。

では、なぜこの1回あたりの改善幅が伸び悩んでしまうのでしょうか。
ビービットはこれを、「グロース業務の原点」に立ち戻って解き明かしています。

『Hacking Growth(ハッキング・グロース)』(ショーン・エリス著)という本があります。
その中で、いわゆる理想のグロース業務のフローとしてこちら(図)が紹介されています。

まず、顧客との各接点で取得された行動データを【分析】します。
次に、ここで伸びしろやボトルネックを明らかにした上で、アイデアを皆で【立案】します。
立案されたアイデアの中で、実装に向けた工数や期間を鑑みた上で、それらのアイデアに【優先順位】をつけて優先度が高いものから【実験】していきます。
その結果をまた【分析】で振り返るというようなサイクルをぐるぐる回していきます。

これがいわゆる理想のグロース業務フローと言われています。
特にポイントが、最初の行動データの「分析」の部分です。
書籍の中では、分析フェーズでやることは次のように紹介されています。

“Discover promising new growth opportunities through qualitative and quantitative date dives. (新たな成長の伸びしろを、量的なデータと質的なデータの両方から発見する) ”

つまり、なかなかうまくファネルを進むお客様が少ないというようなプロダクトの問題を量的データで捉えることと、「なぜお客様はそこでうまく進んでくれないのか」「なぜこの機能を使いにくそうに感じているのか」というようなお客様の状況を質的なデータから捉える、ということです。

この2つを合わせて、解くべき課題を定義してから、次のステップである「アイデア立案」に移りましょう、という内容がいわゆる理想的なグロース業務というわけです。

ただ、「この業務がなかなかうまくいかない」「ここがまさに伸び悩みの原因だ」と我々は捉えています。

グロース業務の落とし穴:量的データへの過信と偏重

「グロース業務」というものは、日本では数年前から耳にするようになりましたが、実は偏ったイメージで伝わっていることが非常に多いように思います。

例えば、「量的なデータを基に実験を試すことこそ正義である」とか、あるいは「とにかく改善のを積み重ねることこそ正義である」といったものです。

ここで、先ほどの“新たな成長の伸びしろを、量的なデータと質的なデータの両方から発見する”の話と照らし合わせてみます。
すると、日本のグロース業務の現状は、質的データの分析、つまり「ユーザの状況理解」が足りないまま次のアイディア立案に移ってしまっているようです。

ユーザ状況の理解不足がもたらすグロースの停滞

ユーザ状況の理解が疎かなままアイデア立案に移ってしまうと、やはりいくつかの問題が生じてしまいます。

よくある例として、チームの認識が揃っていないケースです。
グロース業務はおそらく1人ではなく複数人でされることが多いと思います。その複数人の中で、「一体、僕らは何の課題を解くのか? 今がどんな状態で、今後どんな状態に持っていけばいいのか?」といった認識が、実はバラバラになってしまっています。みんながみんな、違うユーザの課題を想像しているので、改善の方向性が散らばるんですね。

散らばるだけではありません。1人だけすごいセンスの良いメンバーがいれば、その人のアイデアばかり採用していれば成果は上がり続けます。が、なかなかそういうことも多くはありません。解くべき課題を誰も細かいところまできちんと理解していない、理解しきれないというような課題も生じます。結果的に、大きな改善幅をもたらすアイデアはそもそも生まれにくい状況に陥っていることもあるかと思います。

さらには、ユーザ状況の理解をないがしろにしてしまうと、「お客様にとってこれが本当に良い施策だったのか」「お客様の課題を本当に解決できたのか」という観点で施策の振り返りが行えなくなってしまいます。
結果的に、顧客獲得はそれ、オンボーディングはそれ、活用・活性化はそれ、というように、各部署の個別最適化が進んでしまいます。

前半のまとめ

●理想のグロース業務フローは分析→アイデア立案→優先順位付け→実験の繰り返しです。

●しかし、グロース業務で伸び悩んでしまう壁があります。それは「分析」フェーズで「ユーザ状況の理解」が不足している点にあります。

●非常に大切な「ユーザ状況の理解」のステップを疎かにしてアイデア立案や企画の優先度付けに移行してしまうと、「解くべき課題に関する認識が揃わない」「解くべき課題は誰も正しく理解できていない」「ユーザの課題を本当に解決できたのか、施策から振り返りができない」といった問題がチームに生じてしまいます。

伸び悩まないグロース業務に必要な「UXグロース」方法論

では、そのような壁をうまく突破していく、乗り越えていくために必要な業務フローはどのようなものなのでしょうか。

実は、方法は非常にシンプルです。

今までは「行動データを分析するのだ」と一括りに捉えてきたフェーズを、名前をつけて2つに分け、それぞれを実行する、というだけです。
今日のセミナーの中で1つだけ覚えて帰っていただくとしたら、このスライドを推奨します。

まず、「分析」フェーズに「ビジネス分析」を設けます。
ここでは行動データを量的に扱って、何が起きているのかを探っていくフェーズです。

例えば、長く使い続けているお客様には、何か共通する行動パターンや属性情報はないかと調査する、あるいはユーザがアプリをダウンロードした後、コンバージョン(特定のアクション)をするまでにどこで離脱してしまっているのかをファネル的に明らかにすることなどを指します。

通常は、これらを行った後、すぐアイデア立案に移ってしまうと思いますが、この後に「ユーザ分析」というフェーズを、明確に名前をつけて実践することをビービットでは推奨しています。

「ユーザ分析」では、行動データを質的に扱います。「なぜここで離脱するのだろうか?」「なぜこの行動をすると長く使い続けてくれるのだろうか?」というように、ユーザの心理を理解していくようなフェーズです。

「ユーザ分析」で売上が伸びたカラコン販売会社

例として、あるカラーコンタクト販売のアプリをご紹介します。
こちらは「ビジネス分析」のフェーズで量的データからお客様の傾向を発見した後、「ユーザ分析」というステップを明確に取り入れることで大きなグロースを実現した事例です。

まず、こちらの会社は「ビジネス分析」のフェーズで、実際にアプリを利用されていらっしゃるお客様のトラフィックデータを解析しました。そこからこのような行動データが見えてきました。

(1) 特定期間に初回起動したユーザは、LTVが高まる傾向にある(売上の9割を、1割のロイヤルカスタマーが占める構造)
(2) 毎月同じ商品のページを閲覧し、同じ商品を買い続ける傾向にある(青いカラコン(カラーコンタクト)を買うユーザは、毎月青いカラコンのページを閲覧し、定期的に青のカラコンを買い続ける)

1の結果は、このようなお客様を今後さらに増やしていくための企画づくりに繋がりました。
一方、2の結果からは、こちらの会社はこのように考え、施策に取り組もうとしていました。

「青色のカラコンしか買いに来ないということは、なくなったタイミングでアプリを立ち上げてすぐ買う、という使われ方をしているのだな」
「買い時を逃がさないようなプッシュ通知とか送ってみようか」

ただ、ここでビービットから「ユーザ分析の理解というステップをぜひ追加してください」とご提案したところ、思ってもみない発見があったそうです。

Aさんという青のカラコンを毎月買っているロイヤルカスタマーがいました。
行動データを見ると、そのAさんは実は、青のカラコンを毎回買う一方で、黄色や紫のカラーコンタクトのページに頻繁に訪れていることがわかりました。
さらに詳しく見ていくと、毎月毎月、青のカラコンを買う2日ほど前に黄色や紫のページを順繰りに見ながら、青ではないカラコンをカートに入れてみては外して、「買ってみようかな、どうしようかな。」のような動きを繰り返しながら、結局いつもの青色のコンタクトを買っている、という動きが見えてきました。
他にも、いつも黄色を買い続けているお客様が、緑や青に気移りしている様子が明らかになり、このような方が非常に多いということがわかったのです。

ユーザの状況が見えてきたことで、こちらの会社は、これまでとは全く違うアイデア立案に移ることができました。

このようなユーザ行動を見ると、「実はユーザは、他の商品にトライしてみたいという気持ちがあるけれど、勇気が出ないから購入に踏み切れないのでは?」というような、ユーザの状況に関する理解が深まり、しかもこの状況をチームメンバー全員で理解したことで、当初のプッシュ通知以外の施策もバンバン出てくるようになりました。
売上が下降傾向にあったところを、この発見を元にしたグロース業務がぐるぐると回り始め、売上が増加したそうです。

ユーザ分析の進め方

では、このようなユーザ状況の理解を、一体どのように進めていけばよいのでしょうか。

「ビジネス分析」のフェーズでは、みなさんで取得された行動データや属性データをもとに実施されると思います。それに加えて「ユーザ分析」のフェーズではこれらを質的に扱う必要があります。ここで一般的なのは、ユーザ調査やアンケート調査です。これらは高頻度で行うことが難しかったり、正しい回答を得るのが難しかったりするので、行き詰まってしまうと思います。

そこで、第一部で例に挙げた中国のタクシー配車アプリDiDi(ディー・ディー)のように、ユーザの滞在時間が長いページがわかるような、「ユーザ分析」においてもデータを使うことを推奨しています。

さらに、このステップのポイントは、「誰と行うのか」ということです。
「ビジネス分析」では、いわゆるデータサイエンティストの方やご担当の方がデータを出すことが多いかと思います。こちらは今までと変わらずでも良いかと思います。
ただ、この「ユーザ分析」に関しては、同じデータを見てあらゆる角度から解釈することによって理解が深まり、認識が揃っていくものです。のちに発生する工程のことも鑑みると、「みんなで一緒にお客様像を揃えていた方が非常に効率的だ」ということがお分かりになると思います。
ですから、企画者・データ分析者・エンジニアなどの方が集まって実施することが望ましいです。
ビービットのお客様の中でも、ここを個人でやるケースと複数人でやるケースでいいますと、複数人でやるケースの方がものすごい成果が出るということがわかっています。

この後の進め方の例としては、2つのパターンがあると思っています。

A「ユーザ分析」をみんなでやり、各人がきちんと認識した上で持ち帰る。それぞれがアイデア立案をして、後日アイデアを持ち寄り、優先度付けをする。
B「ユーザ分析」で認識を皆で揃えた後、そのままその場でアイデア立案に移って優先順位付けまで行う。(だいたい60〜90分で一気に行う)

割合としてはAが3割、Bが7割ぐらいの印象ですが、各社の状況に合わせて進め方は検討してみてください。

このようにユーザ分析をデータに基づいて行えるようになると、みんなで認識を揃えた上で企画に移行することができますので、前半でお話した問題が解消されるというわけです。

中盤のまとめ

●伸び悩まないグロース業務に必要な「業務フロー」とは、「分析」フェーズを「ビジネス分析」と「ユーザ分析」の2つに分けて行うことです。

●特に「ユーザ分析」が抜けがちです。ここでも「アフターデジタル」の時代だからこそ取得できる行動データを使うことがおすすめです。

●「ユーザ分析」を「誰と行うか」が重要です。個人ではなく、企画者やデータ分析者、エンジニアなどが集まって行うと効果的です。

伸び悩まないグロース業務に必要な「スキル」について

では最後に、先ほどのような業務フローを、実際に遂行していく上でどのような「スキル」が必要なのかを一部ご紹介していきます。

大きくグロースし続けるためのUX企画プロセス、つまり「アイデア立案」において必要なスキルは2つあります。

何よりも大切なのは、「行動データからユーザ状況を捉えて、解くべき課題を定義するスキル」です。
ユーザの状況理解を進める中で、行動データから「お客様にはこういう迷いや悩みがあるようだ」というような、お客様の状況をしっかり捉えること。その上で「どういった改善をしていけばよいのか」という解くべき課題を定義できることが必要です。

次に、「具体的な改善案を立案するスキル」です。

これらをシンプルに例えると、行動データから「この情報にお客様が気づいていないようだ」と分かったなら、「気づいてもらえるようにする」と課題を設定し、「気づいてもらえる具体的な改善施策を立案する」というような流れです。

スキルの育成においては、この2つを分けて捉えて、それぞれで伸ばしていくということをおすすめしています。

UXグロース方法論 導入・定着の3ステップ

では、これらの業務フローとスキル育成をどう進めていくか、のお話をして終わりにしたいと思います。これらは3ステップで進めていくことができます。

<STEP1>
いきなり大規模にデータ基盤を整えたり、業務プロセスを変革したりするのはハードルが高いのも実情です。まずは小さく・具体的にテーマを定めてUXグロース方法論に挑戦し、成果が上がりそうかを見極めることが何よりも重要です。「商品登録機能の利用ユーザ数を増やす」や「会員登録後のメルマガからのCVRを高める」、「ダウンロード後7日までのアクション数を増やす」といったテーマで問題ありません。
外部パートナーやサービス後からも借りながら、活動主体は自社内で担う形で進めてください。

<STEP2>
STEP1で、UXグロース方法論により成果が上がった場合、それを組織的な活動にするための検討を行います。前述の必要なスキルを高めたり、業務プロセスを整備したり、といった活動を行います。

<STEP3>
STEP2が完了すると、組織的な活動としてUXグロースを行えるようになり、成果が次々に上がります。すると、他サービスでもUXグロース方法論を試したいという声が上がったり、サービス・部門横断でUXグロースを回すような機運が高まったりといった変化が起こります。
いずれの場合にも、STEP1~STEP2で紡いできた成功ストーリーをベースにしながら、各顧客接点の運用改善業務にUXグロース方法論を順次取り入れていきます。また、そのような活動が行いやすいよう、組織体制事態を変更するという手を打つこともあります。

ビービットのサービス紹介

ちなみに、当社はこのようなUXグロース方法論の導入・定着を、「UXグロースコンサルティングサービス」でご支援しています。

顧客体験改善によるビジネス成長を並走支援するプロフェッショナルサービスに、独自のUX企画方法論をもとに開発した行動データ分析SaaS「USERGRAM」を組合せて、大手企業様を中心にご提供中です。

詳しくは下記より詳細をご覧ください。
https://www.bebit.co.jp/uxg/

後半のまとめ

●グロース業務フローを遂行していくためにUX企画プロセスで必要なスキルは2つ。1つ目は「行動データからユーザ状況を捉え、解くべき課題を定義するスキル」、もう1つは「定義した課題を解決する具体的な改善案を立案するスキル」です。

●スキルの育成は2つまとめて考えるのではなく、1つずつ伸ばしていくことが重要です。

●業務フローを定着させ、UXグロースを加速するためには、UXグロース方法論を小さな領域で試し、明確な成果を出すことから始めることをおすすめします。

<講師プロフィール>

株式会社ビービット 佐藤 駿
UXインテリジェンス事業部 プロダクトマーケティング担当

東京大学経済学部経済学科を卒業後、ビービット入社。コンサルタントとして保険・メディア・ECなど様々な業界のUX向上/コンセプト立案のご支援を行った後、SaaSセールスとしてWEBサービスやECサイトなどを中心にUSERGRAM導入後まで含めた成果創出のご支援を実施。 現在はプロダクトマーケティング担当としてアプリやデジタルサービスの改善に向けたサービス開発に携わる。
第一部の記事はこちら▶︎なぜ『UXグロースチーム』が必要なのか?前編

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