2021.12.09 Thu.

UX社会のバッドエンドとハッピーエンド~アメリカの過ちから学ぶ

2021.12.09 Thu.

2014年から2015年頃、アメリカをはじめとしてデザインやUXの重要性が叫ばれ、その結果多くのUXファーム・デザインファームが大企業に買収されました。

  • アクセンチュア「Fjord」買収(2013年)
  • 米大手金融機関Capital One「Adaptive Path」買収(2014年)
  • スペイン大手金融機関BBVA「Spring Studio」を買収(2015年)
  • マッキンゼー「LUNAR」を買収(2015年)

これらが有名どころですが、このトレンドに乗った小さな買収事例は数多くあり、シリコンバレーからデザインファームが消えたと言われるほどです。

買収されたデザインファームの1つ、Adaptive Pathは、アメリカの中でも非常にプレゼンスの高いデザインファームで、大規模なカンファレンスを毎年行っているプレイヤーでした。私自身、当時憧れて、2014年にサンフランシスコで開かれた”UX Week”に参加したものです。買収が発表されたのはUX Weekの一か月後で、憧れていただけに呆然としたのを覚えています。

ユーザ理解不在のUX劇場

このAdaptive Pathの元チーフクリエイティブオフィサー、Jesse James Garrett氏が今年の6月、「UXは何処で道を間違えたのか」という衝撃的な言葉とともに記事を発表し、8月にデザインビジネスマガジン”Desigining”のnoteで日本語訳が公開されました。
https://note.designing.jp/n/ne39dbd916b3e

要約すると、以下のようなことが書いてあります。(是非本文も読んでみてください)

  • UXはこれまでにないほど注目を浴び、巨大な業界になったが、業界のリーダーたちは口をそろえて、「何処で道を間違えたのか」と言う。
  • UXは元々、人間理解や洞察を経営につなげるものであり、人々の違いを理解し尊重する文化があったが、結果としてそうならなかった。
  • 多くの企業が「UX劇場」、つまり1人もリアルなユーザを巻き込まずに、フレームワーク化したプロセスだけをなぞり、「わが社はデザインプロセスを採用している」とポーズを取るだけのUXをやっている。
  • どうしても時間のかかるプロセスの中で、変革を急ぐあまりに重要なプロセスを省いたり、不都合な問いから目を背けたりしたことで、意味のないUXが増えてしまった。

上記リンクの本文中にもありますが、ここで言われる「UX劇場」とはTanya SnookというUXデザイナーが言い始めた言葉で、「ユーザー中心」を掲げていながら、プロセスに1人もユーザーを巻き込むことなく、ユーザーリサーチやユーザビリティテストなどのUX手法のみを取り入れることを指しています。

2014年にAdaptive Pathが買収されたとき、「少なくとも日本ではまだまだUXはマイナーで、そこまでの地位を得ることなんて想像できないのだから、こうやって企業がUXを重視したり、ケイパビリティを獲得していったりするなら、いいことなのかもしれない。」と思っていました。

それ自体はそうなのかもしれませんが、結果としてバッドエンドに進んでしまっていることに、戦慄を感じます。日本の現状を見ても、あまりにもリアリティがあって恐ろしい。Tanya Snook氏も、「UXがバズワード化した結果、宣伝として使われ、実際には一切本当のUXづくりが行なわれなかった」と語っています。(https://uxpodcast.com/ux-theatre-spydergrrl/

断言しておくべきなのは、UXとは頭で思いついたりワークショップで描いた「いい感じの体験」「素敵な体験」のことではない、ということでしょう。

アフターデジタルの文脈から、「DXの目的は新しいUXの提供である」と一貫してメッセージを発していますが、そのUXとはユーザ理解に基づくユーザインサイトから生まれてくるものです。しかし、どうしても今の日本でUXという時、細部まで行き届いたおもてなしや、驚きのある素敵な体験を「考えて」創り出し、提供することのように語られる傾向があります。優秀なプランナーがいれば、ポンっと素敵なものが生まれてくるクリエイティブな職人芸のように思われているのだとしたら、それは全く違うわけです。

私自身、UX起点でビジネスを作る時代になり、UX業務が「マーケティング」や「営業」と同様のレベルで使われるような企業経営、社会づくりが行なわれるようになると、世の中がもっと良くなるはずだと思って活動しています。「UX劇場化」の落とし穴にハマらないためにも、UXが本質を外した商業的なものにならないためにも、「UXはユーザ理解から始まる」というメッセージを大々的に展開して、日本にユーザ理解活動の重要性を浸透させないといけない気がしてきています。

ビジネスとUXの逆転

上記のような買収の結果、UX作りはどのようになっているのか、実際に大手戦略コンサルティング系の会社に入ったデザイナーやUXデザイナーの知人から聞くことがあります。これは企業によるのだと思うので、一概には言えないのですが、「ビジネスコンサルタントが結局一番偉い構造なので、軽視されたり、見下されていると感じることがある」「UXやデザインはあくまでパーツのような役割になる」と聞くことが多いのが私の周囲の肌感で、国内でも国外でも同様です。

これは、アフターデジタルの論理を理解できない企業において起こることと考えています。ビジネス起点で体験を考えると、特にユーザがペインを抱える状況にないにもかかわらず、企業視点で「このドメインやこのデータが必要だ」という思考から無理やり体験を繋ぎ合わせることになり、人々にとって大して魅力的でない事業やサービスが出来上がります。

「DXの目的が新しいUXの提供である」とするのであれば、実際には提供するべきUXの議論が先に行われるべき、ということになります。一つ前のニュースレターでも書いたように競合の考え方も大きく変わるような時代において、縦切りの業界という従来型の思考でビジネスコンサルティングからドメインを規定して、その後に体験を考えるという順番ではうまく行きません。企業のパーパスや存在意義に関わる形で、どのようなユーザの状況や行動フローをターゲットにするか、そこに存在するペインポイントは何か、からUXを構築していく必要があります。

ビービットの最近の経験では、これをやった後にむしろビジネスコンサルティングのケイパビリティが必要になってくるケースが多いです。ユーザのペインポイントを洗い出し、成立する体験を検討した後で、それが本当に有望な打ち手たり得るのか、いくつか選択肢がある場合にはどのオプションが望ましいかを、ビジネス観点から検討していきます。

つまり、逆にUXファームが上位レイヤーのプランニングを行う方がユーザに受け入れられるUXを作ることができますし、その方が結果として企業もユーザもベネフィットがある形になります。むしろUXファーム側がビジネスコンサルティングを買収したり、このスキームで提携した方が本質的には良いはずなのですが、多くの人から見てこれは突拍子もないことに見えますし、ビジネスコンサルティング側もプライドが許さないのが現状でしょう。

ユーザ理解のパターン

ユーザ理解不在のUX劇場ではいけないという話をしましたが、最後に、インサイトに基づく正しいUX作りにおけるユーザ理解の方法を、いくつかご紹介します。

①ユーザの置かれている状態を理解しに、取りに行く方法
・デプスインタビューのようにヒアリングベースで聴取する方法
・エスノグラフィーや行動観察調査などの観察手法

②自分自身がユーザである、ユーザになることでユーザを内在化させる方法
・元々自分が一番のユーザである、というパターン
・とにかく実際のユーザに自分がなるパターン

③サービスローンチ後にユーザからのフィードバックを受けてグロースさせる方法

ユーザ理解というと、①の手法が最もメジャーです。グループインタビューでは同調圧力と話題の流れによって、時系列に基づいた事実が得られにくいのであまりお勧めできません。また、人は自分の意見を正確に表現できなかったり、習慣化していることを認識できていなかったりするので、行動観察手法の方がより深いインサイトを得られる傾向にあります。この辺りは『UXグロースモデル』を読んでいただけるとよいかと思います。

実際に自身がサービスを作ったり企画をしたりする上では、②が重要だったりします。大企業あるあるで、例えば新規事業で「料理」に関わるサービスを作ろうとしているのに、ほぼ全員が料理がしたことがないとか、シェアリングカーのサービスをやろうとしているのに、誰も使ったことがなかったりする、みたいなケースがあります。これではどう考えてもユーザ理解の進みが遅くなります。逆に、自分が実ユーザとしての肌感を持っていると、いちいちユーザに聞きに行かなくても、自らユーザとして「この機能はいらない」「このUXの一番嬉しいポイントはここ」など、判断できるようになります。スタートアップの社長などは細かくユーザリサーチなどをしなくても成果が出せるケースがありますが、多くの場合はこのパターンで、自らがユーザとして明確に課題が見えていたりします。

①や②をやっていたとしても、③は必ずやるとよいでしょう。実際には世の中の環境に合わせて、ユーザの置かれている状況も、理想的な体験も、刻々と変わっていきます。しかもリアルにサービスを使っているユーザの、本物のデータなので、信憑性が最も高いリアクション・フィードバックになります。①~③は、状況に応じて使い分けながら、全てやれるのが望ましいと思います。

アメリカや中国はUXの領域において日本より数歩先に進んでいる分、先人の踏んだ二の轍を踏まないように学びながら、本質的なUXの取り組みが行われるようになることを願っています。

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