2021.11.25 Thu.

OMOとは?事例で示す日本企業の選ぶべき戦略

2021.11.25 Thu.

OMOとは?事例で示す日本企業の選ぶべき戦略
デジタルがリアルを内包する「アフターデジタル」の世界において、企業が勝ち残るために必要な考え方がOMO(Online Merges with Offline)です。今回は、徹底したユーザ目線から改善点を見つけるOMOについてご説明します。

目次

OMOとは? アフターデジタル時代におけるその意味

OMOとは?定義と言葉の意味

コロナ禍によってリモートワークが推進されたように、オンラインがオフラインに浸透すると「純粋なオフライン」といえる状況がどんどん少なくなります。ビービットでは、これまでのリアルとデジタルがわずかに重なっていた時代を「ビフォアデジタル」とし、これから加速するデジタルがリアルを取り込んだ時代を「アフターデジタル」と呼んでいます。

アフターデジタル時代において、成功した企業が持つ考え方がOMO(Online Merges with Offline)です。オフラインがなくなると、ユーザはリアルとデジタルを意識せず、そのときに一番便利な方法を選びます。

このユーザ目線と同じく、「オンラインとオフラインの区別なく一体のジャーニー(ユーザの行動、感情などの流れを旅としてなぞらえたもの)としてとらえ、オンラインの競争原理から考えること」がOMOです。

O2Oとの違いは?

OMOとは?定義と言葉の意味

OMOはO2Oの延長であり、進化した概念だと語られることが多いのですが、実は根本から異なる考え方です。

O2Oとは、「Online to Offline」の略称であり、オンラインからオフラインに如何にユーザを送客するか、という考え方で、ウェブサイトやECが無視できなくなるほど大きくなり始めた際に、例えばアパレルや小売りにおいてどのように連携を図っていくべきかが考えられ始めて登場した言葉です。
これはあくまで「企業視点」の言葉であると言えます。「ユーザを送客する」という考え方や、オンラインとオフラインをあくまでビジネスにおけるチャネルの概念で分けている点からそれが伺えます。

一方でOMOというのは、「ユーザの視点に立てば、オンラインもオフラインも関係なく、一番便利な方法で目的が達成されればよい」という考え方なので、「ユーザ視点」であり、ビジネス起点・チャネル起点ではなく、UX起点で語られる言葉であると言えます。実は、あらゆるビジネスをUX起点に書き換えるような革新的な意味を持っています。

中国に見る2つのOMO推進事例

OMOの事例には大きく2つの傾向があり、1つが「接点革命」、もう1つが「流通革命」です。OMOが進んだ中国企業から、接点革命は平安(ピンアン)保険、流通革命はフーマーを事例としてご紹介します。

平安保険 アプリ一つで完結する経済圏戦略

平安保険は1988年に創業した保険会社で、現在はDX(デジタルトランスフォーメーション、デジタルを利用した変革)に成功し、4大保険の一角を占める大企業です。

従来の保険は、いったん購入したらケガをしたり入院したりするまで連絡を取らないような、顧客との接点が非常に少ないビジネスモデルでした。平安保険はこのことに危機感を持ち、中核だった金融ビジネスだけでなく、医療や住居といった生活圏にまでサービスを拡大させました。

その中でとくに成功したのが、「平安好医生」(グッドドクターアプリ)という医療・健康支援アプリです。

中国平安保険のアプリによるOMO事例

じつは中国では、医療の品質に大きなバラツキがあり、酷い医師にあたってしまうと、いい加減な処方箋で高額な医療費を請求されたり、命の危険にさらされたりすることさえありました。その一方で、人気の病院には人が殺到し、整理券が転売されるような事態まで起こっていました。

そうした事態を解決するため、平安グッドドクターアプリは医師と協力関係を結び、アプリの機能で問診をしたり病院を予約したりできるようにしました。とくに病院の予約機能は、近場にある病院を探すだけなく、そこに勤務する医師のプロフィールや評価スコアなども確認でき、その空き状況も見ながら安心できる病院・医師を選べるようにしたのです。

フーマー EC注文の壁を下げるためにリアルストアを使う発想の転換

フーマーはアリババが2016年から展開する、EC機能を持った生鮮食品スーパーです。中国でもっとも成功したOMO型 ビジネスの1つとして注目を集めています。

フーマーの最大の特徴は、新鮮で豊富な食材をユーザに届ける仕組みです。オンラインで商品を注文すると、店内のいたる所に配置されている店員の専用端末にその情報が届けられ、商品棚から受注商品をピックアップします。

この時間は3分と決められているそうです。専用のバッグに商品を詰め終えたら、専用のベルトコンベアーから店内を通ってバックヤードに届けられます。そして、そこに待機するデリバリー専用のドライバーが、注文を受けてから30分以内にユーザへ届けるそうです。

ほとんどのユーザは最初、便利なオンラインからフーマーのサービスを利用しますが、近くにあることがわかると一度は実店舗を訪れます。このお店は「ユーザがウォークインできる食品ECの倉庫」であると同時に、スーパーマーケットであり、買った食品をフードコートで食べられるレストランでもあるのです。

この仕組みのおかげで、ユーザは「そのとき一番便利な方法」を選びやすくなります。

フーマーでは、会社から自宅への帰り道で注文したものを、帰宅とほぼ同時に受け取ることもできれば、実際に店舗に寄って購入し、それを無料で配送してもらって自分は手ブラで帰ることもできるのです。

日本企業の「逆OMO」的考え方では失敗する

OMOは「すでにオンラインとオフラインは融合しているため、オンオフと言うチャネルで分けた考え方ではなく、全てをオンライン起点、オンラインのビジネス原理で考える」こと。

しかし、アフターデジタルを真の意味で理解していない日本企業は、ここまでに説明してきたOMOではなく、「逆OMO」的な考え方でデジタル化を推進しがちです。その一例として、中国の京東(ジンドン)という会社が経営する「無人コンビニ」を視察した際に、日本企業がOMOを誤解していた例をご紹介します。

マーケティング戦略の1施策ではなく、全体の改革が必要

京東への視察にて、ある企業が無人コンビニのノウハウを一部の店舗から試験的に導入する方法を問いました。それに対して京東側は以下のように回答しました。

「無人店舗を設置すること自体に意味があるのではなく、オンラインの店舗の一部をリアルに置いているようなもの。すべては行動データを取り、それを活用するためにやっていることで、一部の店舗だけ始めても意味がない」

京東の目指すビジネスは「リアル店舗での購買行動を録画し、データとして蓄積・分析することで、行動導線、悩むときのタイミングなど、リアル購買行動データのコンサルティングのような存在」になることであって、コンビニ業をやりたいわけではないのです。「無人にすること」に意味があると思っている日本企業とは大きな違いですね。

京東は上記を目指すために無人レジとその基幹となるデジタルインフラを導入しました。その際、CEO直轄チームを作ってエンジニアを300人も動員し、それでも1年かかりました。OMOで考えるには、部分的に取り組むのではなく、全社で改革に取り組む必要があるのです。

データへの幻想と現実

OMOでよくあるデータに関する誤解

データの蓄積が重要とはいえ、データはただ集めただけではお金になりません。アリババ社のポール氏は、「データはその解釈とセットでないと意味を持たないし、なにに使えるのかがわからないと買ったり使ったりしてくれない」と述べていました。以下にデータへの幻想が、現実と乖離した例を挙げておきます。

【幻想】データが財産だと思っている。
【現実】ソリューション化して活用できないと、リスクとコストばかりで、持っていても意味がない。

【幻想】社会レベルでの共有、または、他社とのエコシステムによってビッグデータ活用できる。
【現実】データの突合には「主導権争いとコストの壁」が立ちはだかり、1社が目的を持って主導しないと実現は難しい。

【幻想】ペイメントデータさえ取れれば勝ちだと考える。
【現実】ペイメントデータで直接的にマネタイズする方法は限られる。ビジネスとビジョンに基づいた目的設定が重要。

また、データをビジネス(お金儲け)に直結させようとすると、どうしても不義理な形になってしまいがちです。そうではなく、データは第一にユーザに還元するようにすべきですし、それができるようなデータの集め方をしなくてはいけません。

日本企業が選ぶべきOMO戦略と成功事例

ここまで、OMOの意義と中国の成功事例、そして日本企業が犯しがちなミスについて解説してきました。
それを踏まえたうえで、日本企業はどのようなOMO戦略を描けばいいのでしょうか?以下、取り組み方や日本企業のOMO事例をご紹介します。

OMO型ビジネスはRPG的な発想で進める

OMO型のビジネスの発想は、ゲームのRPGによく似ています。RPGでは、レベルアップまでの経験値や、敵を倒したときに得られるものが可視化されています。アフターデジタルの世界では、すべての行動がスコア化されるので、その人の頑張りが分かりやすく、またそれに応じた報酬も発生させやすいのです。

一例として、中国のタクシー配車サービス「DiDi」を挙げます。この会社では「早く配車リクエストに応えたか」「早くユーザをピックアップできたか」「適正なスピード、安全な運転、正しいルートで送り届けられたか」など、限られた数種類のデータで、ドライバーの運転品質をスコアリングし、評価しています。

このスコアの素晴らしい点は、前述の通り、「ユーザがタクシー体験において重視すること」を中心に据えてスコアリングされているところです。つまり、タクシー運転手はスコアを高めることで、給料が上がり、社会的信頼も得られる一方、それがそのまま乗客のUX向上にもつながっているということになります。

中国のタクシー体験はこれまでお世辞にも良いと言えるものではなく、乗車拒否やぼったくりが横行し、態度もひどいものでしたが、デジタルとリアルが融合して、UXとドライバーの給与評価を連動させられるようになった結果、このような革新的なことが起こっていると言えます。

流通系企業のOMO成功事例

「ユーザにとって、そのとき一番便利な方法を提供する」ことがOMOの根幹ですが、流通系ではその実現のためにリアルのリソースを厚くせざるをえず、コストが肥大化しがちです。成功した企業は、どのようにこの難題を乗り越えたのでしょうか?

Amazonの「置き配」
ユーザが宅配ボックスや玄関前などの置き場所を指定すると、配達員がそこに置いたうえで、その状態の写真をメールで送るサービスです。ユーザが不在でも荷物を受け取れるメリットはもちろん、配達側も再配達が不要になるメリットがあります。盗難や置き間違いなどのトラブルも起きますが、相談窓口による迅速な対応でカバーしています。

ヤマト運輸のフルフィルメントサービス
こちらは、ヤマト運輸がPayPayモールやYahoo! ショッピングの出店ストア向けに展開している物流サービスです。通常はストア側がデータ処理や梱包などの作業を行いますが、このサービスは受注以降の業務をすべてヤマト運輸が対応します。ストア側は出荷に関わる作業を軽減できる一方、ユーザ側もストアの営業日に関わらずヤマト運輸が出荷対応をしてくれるため、従来よりも荷物が早く受け取れるメリットがあります。

接点系OMOの実現成功事例

新たなユーザとの接点を作り出すためにOMOに取り組む場合、社内説得とケイパビリティ(その企業が得意とする能力)が壁になりがちです。オンラインに強い企業はオフライン活動への社内理解やケイパビリティがなく、オフラインに強い企業はその逆になります。

以下、そこを乗り越え、「デジタル接点を軸にしてユーザの状況をとらえ、リアル接点をツール的に扱う」接点系OMOを実現したメルカリの事例を挙げます。

メルカリ教室
メルカリが主催する、ドコモショップなどのリアルな場を通じて出品の仕方をレクチャーする取り組みです。2000万人以上のユーザを抱えるメルカリにとって、限られた人数にしか教えられないこの活動は非効率に思えますが、参加した人がメルカリを周囲にも勧めるなどのLTV(顧客生産価値)が高いと判断され、実現にいたりました。

また、ウェブサービスを展開するメルカリには、当然ながらリアルの場に人を集めて教える専門家はいませんでした。しかし、スマホに強く、また「スマホ教室」などで教える人材がそろっていたドコモの協力を得たことで、「オンラインに弱い」というケイパビリティの壁を乗り越えたことも注目すべきポイントです。

メルカリステーション
メルカリ教室の成功を受けて、メルカリが展開したリアル提携プロジェクトの1つが、丸井グループと協業したメルカリステーションです。マルイの店舗内に設置されたこちらのスペースでは、上記のメルカリ教室に加え、出店用商品の撮影ブースや、売れた商品を投函するだけで発送できる「メルカリポスト」などが利用可能になっています。この運営は、売り場作りや接客のノウハウを持つマルイの社員が請け負っています。

過去実施したOMOに関するセミナー/イベント

日本企業の中でも、先進的な企業はOMOを導入し、成功を収めつつあります。こうした事例は企業ごとにどのように導入することが成功につながるのかが違ってきます。

ここにあげた以外にも、多くの事例があり、ビービットでは定期的にOMOに関するセミナーやUXに関するイベントを開催しております。

中でも月に1回、開催しているオンラインセミナーでは、『アフターデジタル』著者・藤井に直接、質問ができます。
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