2021.10.07 Thu.

新規立案UX企画を検証・精緻化する手法【『UXグロースモデル』から限定公開!】

2021.10.07 Thu.

「絶対にいける!」とひらめいて立案したUX企画がうまくいかなかった。「どう新しく企画を立てていいかわからない!」という経験をされた方も多いのではないでしょうか? 今回は、新刊『UXグロースモデル』から、既存サービスのUXを抜本的に成長・進化させるための、ボトムアップ型の方法論を具体的に説明している第4章の一部を抜粋する形で紹介します。

前節では、「既存サービスのUXを抜本的に成長・進化させるUX企画」の初期仮説を立案する方法論・業務プロセスについて説明していきました。

前節での検討の中で立案したUX企画や新たなサービスコンセプトをそのまま実行・実装しても良いのですが、システム開発コストの大きいUX企画や、既存サービスのコンセプトを抜本的に転換するようなUX企画が初期仮説に含まれている場合は、まずはUX企画の有効性を検証できるようなユーザ調査を行うことを推奨します。つまり、いきなりUX企画を実行・実装するのではなく、UX企画をプロトタイプ(試作品)に落とし込み、実際のユーザにぶつけて反応を伺うような調査を行うことで有効性を検証しつつ、調査結果を踏まえてUX企画を修正・アップデートしていくべきである、ということです。

UX企画の初期仮説をプロトタイプに落としこんだ上でユーザ調査にかけると、必ずと言っていいほど何らかの発見点、想定外の気づきがあります。時には「絶対にいける!」と思っていたUX企画が、ユーザから見るとまったく役に立たないものであることが判明するケースもあります。逆に言えば、UX企画の検証・精緻化プロセスをショートカットすると、ビジネス成果に乏しい施策に大きな開発工数を割いてしまったり、提供価値がむしろマイナスになるような形でサービスコンセプトをアップデートしてしまうリスクを抱えることになります。

そこで本節では、立案したUX企画の有効性を検証・精緻化するための方法論・業務プロセスについて詳しく解説します。最初に全体像を提示しておくと、UX企画を検証・精緻化する方法論は図表4-17に示すような4つのSTEPが循環する形で構成されます。以下、各ステップごとの検討内容について詳しく説明していきます。

STEP1. プロトタイプへの落とし込み

まずはUX企画、新たなサービスコンセプトをユーザにぶつけて有効性を検証できる状態にするために、今ある仮説をプロトタイプ(試作品)に落とし込んでいきます。ここでプロトタイプといっても、必ずしもワイヤーフレーム、スマホアプリの画面イメージといった具体的なものに落とし込む必要はありません。UX企画を具体的なワイヤーフレームに落とし込む前に、まずはそのUX企画が「どのようなシーン・状況に置かれたユーザに対して、どのようなUXを提供することで、ユーザの生活をどのように豊かにするものか」を端的に説明するようなサービス概要の紹介資料を作成することを推奨します。つまり、まずは図表4-18に提示するようなレベル感でUX企画を具体化し、それを実際のユーザにぶつけて反応を伺うことによって仮説の有効性を検証していく、ということです。このようなサービス概要の紹介資料のことを、本書では「コンセプトシート」と呼ぶことにします。

もちろん、いきなりUX企画の初期仮説をスマホアプリなどの形で具体的なワイヤーフレーム、画面イメージに落とし込んでいっても良いのですが、「検証したいUX企画が数多くある場合に、1つ1つ画面イメージに落とし込んでいくと調査準備に時間がかかりすぎる」、「プロトタイプの使い勝手の良し悪しによってユーザ調査の結果が左右されてしまい、UX企画そのものの有効性を検証できなくなるリスクがある」といった問題点があるため、まずはコンセプトシートを用いた定性調査によってUX企画の有効性を検証することを推奨しています。(もちろん上記の問題がクリアできる場合は、いきなり具体的なワイヤーフレーム、画面イメージに落とし込んでいって構いません)

コンセプトシートには「これから検証したいUX企画は、どのようなシーン・状況に置かれたユーザに対して、どのような体験を提供することで、ユーザの生活をどのように豊かにするものなのか」が全く前提知識のない人でも読み取れるように分かりやすく明記する必要があります。検証したいUX企画の内容を無理やり1枚紙にまとめる必要はなく、複数のスライドに分ける形で構いませんので、とにかく分かりやすく正確に描写することが重要です。また、可能であれば先ほど図表4-18で示したように、主要画面のイメージをコンセプトシートに併せて提示できると理想的です。画面イメージを提示することによって、そのUX企画を実際に利用するシーンをユーザが想像しやすくなるため、定性調査からより示唆に富むインプットを得られるようになります。

ちなみにコンセプトシートの品質が低いと、例えば定性調査で「このサービスは、自分にとって利用したいものではない」という反応がユーザ調査の被験者(インタビュー対象者)からあったとき、「UX企画の仮説そのものが間違っていた or コンセプトシートの作りこみが甘くて被験者にうまく価値を伝えられなかったのか」の判別が難しくなり、ユーザ調査の結果を分析・解釈することが難しくなります。その結果として、定性調査から信憑性の高いインプットを得ることが難しくなっていくのです。(図表4-19)

ここからは「コンセプトシートの作成」の検討ステップを進める上でのコツであったり、よくある失敗例について説明しておきます。

STEP2. 定性調査によるUX企画の有効性検証・精緻化

立案したUX企画をプロトタイプに落とし込む作業が完了したら、それを定性調査で実際のユーザにぶつけることによって有効性を検証します。つまり、想定されるターゲットユーザと実際に会って(あるいはオンライン上でビデオ通話して)作成したプロトタイプを閲覧してもらい、「実際に利用してみたいと感じる否か」を尋ねていくということです。

ユーザ調査に臨むにあたっては、その前提として「定性調査・ユーザ調査が持つ怖さ、危うさ」を理解しておく必要があります。すなわち、被験者(ユーザインタビューの対象者)の行動・反応は調査の進行役・モデレーターのちょっとした言動次第で大きくバイアスがかかってしまうものであることや、定性調査の結果はいかようにも解釈できてしまうものであることを強く留意するべきである、ということです。本来はユーザが抱えているペインポイントを十分に解決できないようなUX企画であっても、調査・モデレートの進め方や調査結果の解釈方法によっては、事実をいくらでも歪めることができてしまうのがユーザ調査の恐ろしいところです。だからこそ、ユーザ調査に臨むにあたっては「ユーザにとって良いものを作ろうとする誠実さ」や「自らの仮説に固執しない謙虚さ」を持ちつつ、正しいユーザ理解の枠組みに基づいて調査結果を分析することが極めて重要になります。しかしながら、現状では必ずしも正しいと言えない定性調査・ユーザ調査の方法論が広く普及している状況にあります。そこで本項では、定性調査を実施する上で気を付けるべき重要なポイントについて解説していきます。

よくあるユーザ調査・ユーザインタビューの最大の問題点は「なぜ、そう思うのですか?」という風に被験者に対してWHYを尋ね、そこで得られた回答をそのまま信じてしまうことにあります。現状では、定性調査で被験者にプロトタイプを閲覧・利用してもらった後で、「なぜその機能・ サービスを利用したいと思ったのか or 思わなかったのか」を尋ね、被験者の内面・深層心理を探求してくようなアプローチが基本的には正しいとされています。インタビュー担当者に「なぜ利用したいのか or なぜ利用したくないのか」というWHYを尋ねられると、被験者はなんとかして自らの心理を言語化し、その疑問に回答しようとします。例えば「自分にはこういうニーズがあったから」や「自分はこういう性格の人間だから」という風に、心理的な側面から自らの行動・反応の理由を説明しようとするのです。

しかし第3章で説明してきた通り、人間の行動・反応は「内面・深層心理」ではなく「状況・文脈(外部環境)」によって決定される部分が大きいため、人間心理を探求するアプローチでは自らの行動・反応の理由を正しく説明することはできません。とはいえ、インタビュワーにWHYを尋ねられている手前、何らかの回答を返さねばならないため、被験者は自らの行動・反応の背景にある心理的なメカニズムを、無理やり捏造して回答することになります。このような現象は、別に被験者に悪気があるために起きるわけではありません。被験者も自らの行動・背景にある理由を一生懸命に説明しようとしているのですが、人間は自らの行動・選択の理由を客観的に言語化することはできないのです。

このことについて、よりイメージを深めるために具体的な事例を挙げておきます。例えば、A社、B社、C社のお部屋探しサービスがある中で、A社のサービスを選んで利用している被験者がいたとします。そこで、ユーザ調査のインタビュワーが「なぜA社のサービスを利用しているのですか」と尋ねると、被験者からは「掲載されている物件数が多かったから」や「サイトが使いやすいから」といった回答が多くのケースで返ってきます。しかし、そのあとで「A社とB社で掲載されている物件数の違いを知っていますか?」と尋ねると、ほとんどの被験者は「知りません。A社の方が掲載物件数が多いと勝手に思っていましたが、実際のところは知りません」と答えます。また、実際にB社のお部屋探しサービスを利用してもらうと、ほとんどの被験者は「意外とA社とB社でサイトの使いやすさは変わらないですね」といった反応になります。このような形で、被験者にWHYを尋ねて答えてもらった回答内容をイジワルな形で追求していくと、多くの被験者が前言を撤回したり、矛盾した発言を始めるのです。実際には、どのお部屋探しサービスもUXの差はそれほど存在しないため、「どのお部屋探しサービスを利用するか」という比較検討に時間をかけないことが被験者にとって合理的な選択となっており、マス広告による刷り込みによって意思決定を誘導されることを良しとしているケースが大半なのですが、このように客観的な立場から自らの行動・選択の理由、メカニズムを捉えることができる被験者は極めて稀です。

このような背景から、ユーザ調査を実施する際は「被験者にWHYを尋ねても、得られるのは捏造された意見・感想であり、事実ではない」ということを強く意識しておく必要があります。つまり、被験者に対してWHYを尋ねていくことで得られたユーザの意見・発言内容をそのまま報告書に書いたり、その発言内容をベースとして調査結果を分析・解釈したりすると、ユーザ調査から得られる結論は大きく歪んでしまうということです。

では、ユーザ調査・ユーザインタビューをどのように実施するべきなのかと言うと、「WHYを尋ねて人間心理を探求するのではなく、事実を集めてメカニズムを解明する」というのがその答えとなります。例えば、被験者が「このプロトタイプのサービスを利用してみたい」と回答したとすると、そこからインタビュワーは下記のような問いを投げかけることよって、意見や感想ではなく事実を集めていきます。

  • このプロトタイプを利用すると、どのようなシーンにおいて、どのような成功を得ることができそうか
  • このプロトタイプを利用するのは、今の生活におけるどんな困りごとを解消するためか
  • このプロトタイプを利用すると、
    現状の生活がどのように豊かになりそうだとイメージしているか
  • 困りごとを解消するための手段としては、他にはどんな手段が考えられるのか
  • 困りごとを解消する他の手段と比べて、このプロトタイプはどのような点で優れているのか

このような質問をすることによって、第3章で説明したメカニズム解明型のユーザ理解の枠組み・フレームワークを基づいて事実を把握していけば、被験者の行動・反応の背景にあるメカニズムを解明していくことができるのです。(図表4-22)

このように、単に被験者にWHYを問うことによってプロトタイプを利用したい or 利用したくない理由を尋ねるのではなく、メカニズム解明型のユーザ理解の枠組み・フレームワークに基づいて事実を集めることによって「なぜプロトタイプが有効に機能するのか or 機能しないのか」を分析者・リサーチャーが自ら解釈することが極めて重要です。このようなメカニズムを解明できれば、「プロトタイプが機能しないのは、ユーザがどのような状況に置かれているためか」や「どのようなUXを提供すれば競合サービスよりも優位な体験を提供できるようになるか」を理解できるようになり、UX企画の仮説を進化・ブラッシュアップさせる上でのヒントを得ることができるのです。

ここからは「定性調査によるUX企画の有効性検証・精緻化」の検討ステップを進める上でのコツであったり、よくある失敗例について説明しておきます。

STEP3 ~ STEP4. 調査結果の分析・解釈 ~ UX企画のアップデート

ユーザインタビューが一通り終わったら、「立案・検証したUX企画は、実際にユーザが抱えるペインポイントを解消し、自社のビジネス成果の向上に繋がるものになっているか」を判断・評価するステップに進みます。ここで難しいのは、全ての被験者(ユーザインタビューの対象者)から絶賛されるようなUX企画は滅多に存在しない点にあります。つまり、同じUX企画であっても「ぜひ利用してみたい」と回答する被験者と「別に自分には必要ない」や「他社サービスの方が便利だ」と回答する被験者の双方が出現するケースが大半である、ということです。そこで、UX企画・プロトタイプごとの被験者の反応を横並びで整理し、被験者によって利用意向度に関する反応が変わる理由・メカニズムを解明する作業を行います。そうすることで、立案・検証したUX企画は「〇〇の理由から、▽▽のような状況に置かれたユーザには有効に機能するが、◇◇の理由から、△△のような状況に置かれたユーザには機能しない」といったことを明らかにしていくのです。

ここでも重要となるのは、「心理探求型のユーザ理解の枠組みではなく、メカニズム解明型のユーザ理解の枠組みに基づいてUX企画に対する反応が異なる理由・メカニズムを考える」という点です。よくある失敗パターンとして「立案したUX企画が被験者Aさんには高く評価され、被験者Bさんにはそれほど評価されなかったのは、Aさんが〇〇タイプの価値観を、Bさんが△△タイプの価値観を有していたからである」という風に、人間の心理・内面に原因を求めることで調査結果を解釈しようとするケースがあります。しかし第3章で説明したように、UX企画を考える際は心理探求型のユーザ理解の枠組みを前提とするべきではありません。ここでは「被験者Aさんと被験者Bさんでは置かれている状況がどのように異なるために、UX企画に対する反応が変わってくるのか」をメカニズム解明型のユーザ理解の枠組みに基づいて解明・解釈していく必要があります。例えば「今回のユーザ調査で検証したUX企画は、生活がルーティン化しがちな専業主婦が抱えている〇〇のペインを解消する際に有効に機能するため多くのユーザが高い利用意向度を示したが、0~2歳の小さな子どもを育てているユーザには△△の理由から利用してもらえないことが判明した」といった形で、UX企画に対する反応が変わってくる理由・メカニズムを解明していく必要があります。(図表4-23)

このような分析を行うことで、立案・検証したUX企画が「どのような状況に置かれているユーザを、どのくらい強力に支援できるのか」を明らかにできるため、そのUX企画を実装した際における期待成果を大まかに判断することができるようになります。また、立案・検証したUX企画が他社サービスと比べて体験優位 or 体験劣位となる理由が明確になるため、さらにそこからUX企画のブラッシュアップに繋げるヒントを見つけられる場合もあります。

以上のような検討内容を踏まえて、「そのUX企画を実装するべきだ」いう判断・意思決定がなされれば、より精緻なプロトタイプ設計(スマホアプリの画面設計・ワイヤーフレーム設計など)のプロセスに進んでいくことになります。そうして設計・具体化したプロトタイプをまたユーザ調査にかけることによってさらに成功確度を高めつつ仮説をブラッシュアップしていき、最終的に市場にリリースする、という流れとなります。また、残念ながら立案したUX企画が有効に機能しないことがユーザ調査によって判明した場合は、今回の調査から得た学びを踏まえてもう一度ペインポイント分析のステップに戻り、UX企画の初期仮説を練り直す作業からリスタートすることになります。もちろん、UXデザイナーとしてどれだけ経験を積んだとしても仮説を大外しすることもありますし、サービスコンセプトの大幅な転換のような挑戦的な取組みであるほど大きく失敗しやすい傾向にあります。一度の失敗で諦めず、仮説のアップデートを繰り返しながら継続的に試行錯誤を重ねていくことが重要です。

以上が「立案したUX企画を検証・精緻化する方法論・業務プロセス」に関する説明となります。

いかがでしたでしょうか?
第4章はサービスやジャーニー全体に対してアプローチし「今の時代や市場にいるユーザに合致させるためになにをすればよいのか」、という観点での方法論を紹介しており、どのように企画を立案していけばよいのか、具体的な手法が明示されています。
本書では、前提となる時代観の理解から、実践に役立つ様々な手法や事例を豊富にかつ丁寧に盛り込んでおり、読み応えのある内容となっております。ぜひこの機会にお手元においてご活用いただければと思います。
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