2021.09.30 Thu.

既存のUXを高速改善する手法と実例【『UXグロースモデル』から限定公開!】

2021.09.30 Thu.

既存のUXを高速改善する手法と実例【『UXグロースモデル』から限定公開!】
新刊『UXグロースモデル』では、UXグロースモデルをボトムアップ型とトップダウン型の活動に分けて方法論・業務プロセスを解説していますが、今回はデジタル接点の運用業務などを担当しつつ、既存サービスのUXを高速改善するためのボトムアップ型の方法論を具体的に説明している第5章から一部を抜粋する形で紹介します。

高速改善のUX企画の鍵は、シーケンス分析

ここまで紹介してきた高速改善のUX企画の方法論を採用し、UX改善を着実に積み重ねるためのポイントはどのようなものでしょうか。本書では2つのポイントを紹介します。

【ポイント1】
設定した行動フローにおけるユーザの行動の流れをデータで明らかにすること

UXは目に見えないため、特定の行動フローにおいて現状のUXがどうなっているかは、実際にユーザが取っている行動の流れをヒントに推察する必要があります。すなわち、このユーザの行動の流れを正しく捉えないことには、現状のUXも正しく捉えることができないのです。幸いにして、デジタル化が進んだ現代では、アプリやウェブサイトを使うユーザの行動データを企業は取得することができています。ユーザの行動の流れを勘や経験で定義するのではなく、取得した行動データを用いてユーザの行動の流れを把握するのが1つ目のポイントです。

【ポイント2】
明らかにしたユーザの行動の流れを、1ユーザの立場に立って、主観的に追体験すること

現状のUXを把握するには、ポイント1を経て明らかにしたユーザの行動の流れを、1ユーザの立場に立って主観的に追体験することも欠かせません。ユーザの行動を把握し、その行動を追体験することを通して、「ユーザはどのような状況に置かれており、その状況に置かれたユーザからは世界がどのように見えているのか」を非言語的に理解・共感できている状態を目指します。この理解・共感度合いが高ければ高いほど、その利用文脈においてサイトやアプリを利用した際のUXを解像度高く理解することができるのです。

この3つのポイントを効果・効率高く実践するために、本書ではシーケンス分析という手法(行動データをユーザIDごとに時系列に並べ替え、行動の順序を加味したうえで分析する手法)をお勧めします

(利用文脈におけるユーザの行動の流れは、シーケンス分析で把握する)
(行動データをユーザID毎に時系列に並び替え、 現行のユーザの行動の流れを分析する「シーケンス分析」)

アプリやウェブサイトといったデジタル上の顧客接点で取得できている行動データは往々にして、時系列を考慮せずに集計し、PV(ページビュー)数やCVR(コンバージョンレート)・遷移率・アクティブユーザ数・継続率といった形で可視化することが多いものです。しかしこのような分析で分かるのはあくまで個別の「点」におけるユーザ行動の結果や平均であり、特定の利用文脈においてユーザがどのような行動の流れを取ったかまでは分かりません。行動データを時系列を考慮せずに集計的に分析するだけでは、ユーザの行動の流れを正しく明らかにできないため、現状のUXを解像度高く把握するのは難しいのです。

しかし、シーケンス分析という形で行動データを扱えば、「いつ、どこから流入してきたユーザが、どのような流れでページを遷移していき、最終的にどのようなアクションしたのか」といったユーザの行動の流れを、正確に把握することができるようになります。これにより、企業側として提供したいUXを提供できている場合はこう動くであろうという想定の行動の流れと、実際の行動の流れのギャップを見つけることができます。

想定していなかった行動の流れが発生しているということは、想定していなかったUXが生じていることを指し示しています。つまりこの行動のギャップを手掛かりにユーザの行動を追体験すれば、「ユーザがこの画面で欲しい情報を見つけられなかったようだ」や「そもそもユーザのやりたいことはAじゃなくBだったようだ」といったように、想定とは異なる現状のUXを解像度高く捉えることができるようになるのです。

私の所属する株式会社ビービットが支援している企業でも、シーケンス分析を行うことで現状のUXをより解像度高く理解できた例は幾つもあります。以下に代表的なものをいくつか紹介しますので、シーケンス分析を行うことの意味合いをイメージするために活用ください。

事例1:大手セレクトショップ運営企業 ECサイト
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UX改善を試みた行動フロー
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メールマガジン経由で、ECサイトで商品を探し、購入に至るまでの行動フロー

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シーケンス分析を行う前
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[集計的な行動データ分析で分かっていたこと]
お昼の時間帯にメールマガジンを配信しており、一定の開封率・クリック率がある

[そこから理解した現状のUX]
昼の時間帯は比較的時間があるため、開封・クリックしてもらいやすい。夜の方が都合がつきやすいユーザも一部いるが、お昼にメールマガジンを送っておけば、それを夜開いてくれる

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シーケンス分析で分かったこと
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[シーケンス分析で発見した、想定の行動とのギャップ]
メルマガ経由で来訪し商品購入に至るユーザの中に、決まって夜の遅い時間帯にECサイトを閲覧し商品購入をしている女性が複数いた。彼女たちの一部はベビー用品を購入しており、察するに子育て中のお母さんのようだった。

[解像度高く理解できた現状のUX]
女性は昼の時間帯の方が時間があると思っていたが、実は日中のほうが忙しく、夜の方がじっくりサイトを見る時間がある女性も多いのではないか?

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立案したUX企画と、その成果
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メールマガジンの配信時間をお昼 → 夜19時にためしに変更してみたところ、セッション数・メルマガ経由売上ともに300%以上向上。

事例3:電子書籍アプリ運営企業
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UX改善を試みた行動フロー
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アプリをDLしてから7日目以降も利用を継続するまでの一連の行動フロー

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シーケンス分析を行う前
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[集計的な行動データ分析で分かっていたこと]
アプリをDLしてから数日で休眠してしまうユーザがかなりの数いる(継続率が低い)

[そこから理解した現状のUX]
お目当ての作品を読み終わった後、他に気になる作品を見つけようとしているが見つからず、このアプリを使う理由がなくなってしまっているのでは?

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シーケンス分析で分かったこと
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[シーケンス分析で発見した、想定の行動とのギャップ]
お目当ての作品を読み終わった後にはじめて他の作品を探しているユーザはごくわずか。7日目以降も利用を継続しているユーザの多くは、DL後すぐに読みたい作品を幾つも「お気に入り登録」し、お気に入りタブから順々に読んでいる

[解像度高く理解できた現状のUX]
読む → 探す → 読む → 探すではなく、探す → 読む → 読む → 読むなのではないか?
(お気に入り機能を自分だけの「本棚」として活用し始めると、読みたい作品を読むためにこのアプリを開く習慣ができ、利用継続に繋がるのではないか)

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立案したUX企画と、その成果
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・初回起動時のチュートリアルに「お気に入り機能」の案内を入れ、お目当ての作品をお気に入り登録してもらうように変更
・お目当ての作品を登録したタイミングで他作品がレコメンドされ、合わせてお気に入り登録できるような実装にA/Bテストで挑戦
この2つの実装後、DLから7日後時点での継続率が有意に改善。

いかがでしたでしょうか?
第5章は「目の前の業務においてどのようにUX的手法を取り入れられるか」、という観点で多くの事例を含んだ構成になっています。
本書では、前提となる時代観の理解から、実践に役立つ様々な手法や事例を豊富にかつ丁寧に盛り込んでおり、読み応えのある内容となっております。ぜひこの機会にお手元においてご活用いただければと思います。

https://www.amazon.co.jp/dp/4296110179/

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