2021.10.14 Thu.

優れたUX企画チームの作り方【『UXグロースモデル』から限定公開!】

2021.10.14 Thu.

優れたUX企画チームの作り方【『UXグロースモデル』から限定公開!】
「UX企画チームにはどんなメンバーを集めればいいのか?」「各メンバーにはどんなスキルを求めればいいのか?」実践するための組織化をするにあたって疑問を持たれる方も多いのではないでしょうか? 今回は、新刊『UXグロースモデル』から、実践していくために求められる組織、やスキルについて具体的に説明している章から一部を抜粋する形で紹介します。

4-3. 抜本改善のUX企画チームの動き方

前節までは、既存サービスのUXを抜本的に成長・進化させるためのUX企画を立案し、その有効性を検証・精緻化していく方法論・業務プロセスの全体像について説明してきました。本節では第4章の締めくくりとして、抜本改善のUX企画チームの組織内での動き方について説明します。

抜本改善のUX企画チームによって創出されるUX企画は、既存サービスのUXを大きく成長・進化できるものになりやすい一方で、システム開発に時間を要するものにもなりやすい、という特徴があります。そうすると、抜本改善のUX企画チームが次々と優れたUX企画を立案したとしても、システム開発側のキャパシティが足りず、実装スピードが追いつかなくなるという現象が発生します。このような背景から、システム開発側の状況によっては「抜本改善のためのUX企画の立案検討」を常に走らせるのではなく、半年~1年ごとの間隔で定期的に実施するような形を採用した方が良くなる場合があります。

このような状況になったとき、抜本改善のUX企画チームの組織内での動き方としては、以下の2つのオプションがあります。
A.複数サービスのUXを抜本的に成長・進化させる取組みに、部門横断的に携わる方向性
B.高速改善のUX企画チームに合流する方向性

まず1つ目のオプションとしては、「複数サービスのUXを抜本的に成長・進化させる取組みに、部門横断的に携わる」という方向性が挙げられます。こちらのオプションを選択した場合は、抜本改善のためのUX企画推進のプロフェッショナルとして複数のサービスを渡り歩き、組織・サービスを横断して既存サービスの抜本的な成長・進化を実現していくような役割を果たすことになります。1) ペインポイント・アプローチによるUX企画の立案や、2) プロトタイプの作成、3) ユーザ調査による仮説検証といったスキルは専門技能であり、一朝一夕に修得できるものではありません。このため、抜本改善のUX企画を推進する専門チームとして、様々なサービスを横断的に支援するような動き方をすることは十分に可能であると考えます。

こちらのオプションを選択するメリットとしては、「抜本改善のUX企画メンバーの業務スキルを効率的に育成できる点」が挙げられます。チームメンバーが抜本改善のUX企画の推進業務に継続的に携わることができるため、それだけスキルを向上するスピードを速めることができます。逆に「年1回くらいの頻度で抜本改善のためのUX企画を考える」といった組織環境では、チームメンバーがスキルを修得するのに3 ~ 4年以上の時間がかかってしまいます。

次に2つ目のオプションとしては、「高速改善のUX企画チームに合流する方向性」が挙げられます。こちらのオプションを選択した場合は、抜本改善のためのUX企画を立案・実行する需要がない場面ではチームメンバーは高速改善のUX企画チームに合流し、デジタル接点の運用業務をしながら高速改善のためのUX企画の立案・実行をこなしていくような役割を果たすことになります。こちらのオプションを選択するメリットとしては、「抜本改善のUX企画チーム」と「高速改善のUX企画チーム」の間で対話・コミュニケーション量が増えるため、両チーム間の連携を強化することができる点が挙げられます。

本書としては、UXグロースモデルを推進する上で最大のボトルネックが「チームメンバーのUX企画力」となるケースが極めて多いため、可能な限り1つ目のオプション(複数サービスの抜本改善の取組みに、事業横断的に携わる方向性)を選択することを推奨します。ただ、このあたりは組織の状況・特性によって最適な選択肢、実現可能な選択肢は異なってくると思いますので、そのあたりも総合的に踏まえて意思決定をしてもらえればと思います。

5-4. 「高速改善のUX企画チーム」を新たに作るには

ここまでの節では、既に運用されている改善業務の中でUX企画に取り組む場合の進め方やポイントを紹介してきました。しかし読者の中には、デジタル上の顧客接点の運用改善業務を新たに設計せねばならない方もいるのではないかと想像します。

本節ではそのような方に向けて、高速改善のUX企画チームを新たに作るためのポイントをかいつまんで紹介します。すでに運用改善業務に取り組まれている方も、チームを拡大するする際のヒントになるかと思いますので、ぜひお読みください。

開発体制の在り方

特にアプリやデジタルサービスを新しくリリースする場合、「リリース時点に盛り込めなかったが、順次リリースしたい機能」が幾つも残るケースがあります。一般的には、それらを開発ロードマップ(※)という形で整理し、順次開発を進めるやり方がよく見られます。ユーザに提供するUXを拡張する意味においても、この活動は重要です。

一方で、ロードマップに則った開発と並行して、これまで紹介してきたような運用改善業務におけるUX企画も、より良いUXを提供するためには欠かせません。リリースした機能の存在に気付いて貰えていなかったり、使おうとはしているがとある点で躓いていたり、といったことを把握し改善することができない場合、せっかくダウンロードしてくれたユーザの離反を招いてしまいます。

つまり、アプリやデジタルサービスの開発改善においては、ロードマップに則った新機能開発と、運用改善の双方を並行して進めねばならないのです。一方で実際は、開発ラインが全てロードマップに則った開発のための作業で埋まってしまっている場合がよく見られます。運用改善業務を行う中で致命的なUX課題を発見したとしても、開発チケットが既に半年先まで埋まってしまっており、少なくとも半年間は対応ができない……といった話もよくお伺いします。

このような事態に陥らないための鍵の1つが、ロードマップに則った開発(新機能開発)と運用改善に伴う開発の2つに対し、それぞれ開発チームを設けることです。具体的には、開発チームのうち幾つかを、運用改善に伴う開発を行うチームとして組成します。運用改善は短い期間で企画 → 実装を繰り返すため、運用改善に伴う開発チームで実装するのはフロントエンドの改修(画面デザインや文言・導線変更など)が中心になります。ともすると優先度が下がりがちな運用改善に対しても開発チームを設けることで、目の前のUXを着実により良いものに改善する活動を回し続けることができるのです。

(ロードマップに則った開発と、継続改善に伴う開発を並行して進める)

(※)やや横道にそれますが、GAFAに代表されるような米国のプロダクト先進企業では、ロードマップを策定し機能を順次開発していくウォーターフォール型の手法は今や採用されることが少なく、明確な全体方針に基づいた運用改善型(アジャイル型)の開発が中心となっているようです。日本企業でも、サービスローンチから暫く時間が経過し、ローンチ前に実装を計画していた機能を一通り実装し終えたあとは、運用改善型の開発の比重を高めていくことをお勧めします。

高速改善のUX企画チームで、各メンバーが果たす役割

デジタル上の顧客接点の運用改善業務を新たに設計する際には、組織内外からチームメンバーを新たに集めてくる場合もあるでしょう。その際には、チームメンバーにそれぞれ下記の役割を持たせることが大切です。

プロダクトマネジャー
プロダクト全体を管理し、ロードマップ開発・継続改善に伴う開発や、バグへの対応、アプリの方向性や成長・品質に責任を持ちます。継続改善業務においては施策の実行判断や優先順位付けの最終決定を行います。他チームとの連携・調整などの役割も担います。

UX企画メンバー
デジタル上の顧客接点の改善企画を担います。報告レポートを眺めながら企画を立てるのではなく、運用している施策の結果を確認したうえで自ら問題にあたりを付け、UX分析を行ったうえで具体的な改善案を立案します。つまり、ここまで紹介してきたUX企画の方法論を用いて実際にUXの改善案を企画する役割です。立ち上げ期は1 ~ 2名で担うことが多い役割です。ITやデータに関する特別なリテラシ・スキルは必要ありません。

開発メンバー
企画メンバーが立案した改善案の意図を汲み取り、意図通りのUXが実現されるように実装を行います。

上記に加えて、大企業やIT企業を中心に、プロダクトや組織横断のデータ解析部門を備えていることがあります。その場合は、「データ解析部門から数名が上記チームに加入し、UX企画メンバーの結果確認・問題のあたり付け部分を支援する形」や「データ解析部門は、サービス全体を見た上でのボトルネック定義など、運用改善業務の中では生みだしにくい洞察を抽出することに特化する形」がよく見られます。

育てるべきスキル

高速改善型UX企画を行い、実際にUXをより良い方向に改善するためには、幾つかのスキルが必要です。私の所属する株式会社ビービットでは、高速改善型UX企画を自走するために必要なスキルを7つ定義しており、足りないと感じるスキルについては、業務の開始と並行して育成を試みることをお勧めしています。ここで定義しているのは、上述したチーム内の役割でいうと「UX企画メンバー」が備えているとよいスキルです。

下記にてその7つのスキルを、育成方法と合わせて紹介します。1人のUX企画メンバーが7つのスキルを全て備えている必要はなく、複数のメンバーで合わせて下記7つのスキルを備えていれば問題ありません。自分のチームでUX企画を担うメンバーに今後身につけてもらう必要がありそうなスキルを見極める際に、下記をご活用ください。

(構想改善のUX企画チームに必要な7つのスキル)

参考までに、UX企画メンバーでなくプロダクトマネジャーが備えておくべきスキルセットには、上記とは異なります。例えばプロダクトマネジャーのバイブルと言われる名著『INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント』では、プロダクトマネジャーを製品開発チームが何を作るのかに責任を持ち、説明責任を追う役割だと定義した上で、プロダクトマネジャーは下記4つを製品開発チームにもたらさねばならないと書かれています。

(1) 顧客に関する深い知識
(2) データに関する深い知識
(3) 自分たちのビジネスとステークホルダーに関する深い知識
(4) 市場と業界に関する深い知識

プロダクトマネジャーに求められるスキルセットや能力の詳細は上記書籍に譲ります。サービスやプロダクトの成功に責任を持つにあたり獲得せねばならないスキルを見極める際には、ぜひ上記書籍をお読みくださいませ。

必ず行うべき会議

新しい業務である高速改善のUX企画に取り組むうえでは、どうしても様々な悩みや躓きが生じます。その新しい業務の推進を支援できるような仕組みを作ることが大切です。

特におすすめしたいのは、必ず行うべき会議の設計です。5-2.節でも紹介しましたが、同じ個別ユーザの行動の流れを観察し、それぞれが行動理由をどのように推察したかを出し合うことで多面的に行動理由を推察できるため、より確からしい、また、複数の行動要因の仮説が得られます。その他にも、複数人でUX企画に取り組むことには、下記のようなメリットがあります。

自分の考えに自信を持てる
複数人の視点が入ることで、企画メンバーが自信をもって改善施策を説明できるようになります。それによって施策実行の心理的なハードルが下がり、より成果に繋がりやすくなります。

チームとして知見が蓄積される
1人で検討する場合、分析内容や結果の振り返りの知見は、分析・施策立案をした個人で完結してしまいます。逆に複数人で企画を行うことによって、お互いの視点の持ち方から刺激や学びを得たり、分析の思考プロセスやのユーザに対する肌感の共有がなされ、施策実行の結果に関してもメンバー全員の知見として蓄積することができます。

行動データからUXを想像する作業の効果・効率を高めるためにも、まずはUX企画の業務プロセスの一部を会議体で皆で行うようにすることをお勧めします。会議体の持ち方は各チームの状況により異なりますが、代表的な例を3つほど紹介します。

パターンA:行動データの観察・UX課題の推察のみを行う(週2,3回、集まって見るユーザ肌感をつける)。企画立案自体は個々人で行なうパターン
15分~30分といった短い時間で、行動データの観察とUX課題の推察を皆で行います。明確な1つの結論を1回で導き出すというよりも、短時間・高頻度でUX課題の推察を行いつづけることで、ユーザの肌感を得ることや行動データを観察する習慣をつけることを目的に行われることが多いです。チームの朝会として、週に複数回行っているケースもよく見られます。

パターンB:改善案の立案までを行う
60分ほど時間を確保して、行動データの観察・UX課題の推察だけでなく、改善案の立案までを行うパターンです。UX課題を発見すう行動フローの枠が狭く、理想の「期待 - 体験」の流れを検討するのにさほど時間がかからない場合にお勧めです。

パターンC:開発担当も交え、実行計画まで立てる
パターンBより長く、90分ほど時間を確保し「洗い出した改善案の中でどれを実装するか」「誰が・いつまでに担当するか」までを決めきります。開発担当にも参加してもらい、
クイックに企画 ~ 実装を行うことができる企業(ITスタートアップの企業や、既にアジャイル型でサービス改善を進めている企業)でお勧めの方法です。

いかがでしたでしょうか?
ご紹介した内容は第4章、5章の一部の節ですが、前後の節で詳細な方法論を説明するだけでなく実践に向けた、必要な組織やスキルについて詳しく紹介しています。
本書では、前提となる時代観の理解から、実践に役立つ様々な手法や事例を豊富にかつ丁寧に盛り込んでおり、読み応えのある内容となっております。ぜひこの機会にお手元においてご活用いただければと思います。
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