2021.10.21 Thu.

これまでの顧客理解ではUXは作れない?【『UXグロースモデル』から限定公開!】

2021.10.21 Thu.

なぜ、優れたUX企画を立案するためには、特別な才能やセンス、豊富な経験や知識がなければならない!限られた人にしかができない!、と認識されがちなのでしょうか? 今回は、新刊『UXグロースモデル』から、UX企画を立案する業務が難易度の高いものになってしまっているのはなぜか?という問いに対して、それは、「一般的に普及している顧客理解の定義・枠組みが概念的に間違っているからです!」という主張を例を交えながら一部抜粋する形で紹介します。

3-1. ユーザ理解の定義・枠組みを更新する必要性

第1章では、企業が情報社会の到来という外部環境の変化に対応するためには、価値提供モデルをバリュージャーニー型の枠組みに、収益・マーケティングモデルをジャーニー使用料を請求する形に転換した上で、バリュージャーニーの継続的な成長・進化を担うグロースチームを新たに立ち上げることによって、顧客の成功を強力に支援する存在になっていく必要性を提示しました。

その上で第2章では、第1章で提示した目指すべき方向性を実現するためには、『UXグロースモデル』を実践コンセプトとして、トップダウン型UXグロース活動とボトムアップ型UXグロース活動の2つのUXグロース活動に取り組み、それら2つの活動が相互循環的に影響を与え合うような形で活動を進める必要があることを提示しました。

ただし第2章でも述べましたが、UXグロースモデルによる企業変革を推進するためには「こんなUXを新たに創り出せば、ユーザの生活を豊かにできるのではないか」や「既存サービスのUXを、このように改善すれば良いのでは」といったUX企画を立案する能力を組織として修得することが必要不可欠となります。しかし、現状ではUX企画を考える業務は「特別な才能・センス」や「豊富な経験・知識」のある人しか担当できず、一般的なビジネスパーソンにとって難しい仕事として認識されてしまっている傾向があります。このため、UX企画力の不足・欠如が企業変革を推進する上でのボトルネックとなっているのが現状です。

では、なぜ一般的なビジネスパーソンにとって、UX企画を立案する業務は難易度の高いものになってしまっているのでしょうか。その理由は、一般的に普及しているユーザ理解(顧客理解)の定義・枠組みが概念的に間違っているからである、というのが本書の主張です。つまり、ユーザ理解とは「何をどのような枠組みで理解することを指すのか」という定義が間違っているために、ユーザ調査などによって得られたインプットを間違った形で分析・解釈してしまっており、正しくない調査結果・インサイトに基づいてUX企画を考えていかざるを得ない状況になっている、ということです。このことが、UX企画を立案する業務を難しくしている根本的な原因であると考えています。(図表3-1)

このような背景を踏まえ、まず本節では「一般的に普及しているユーザ理解の定義とはどのようなもので、どのような点が間違っているのか」といった論点・テーマについて説明します。

一般的に普及しているユーザ理解の定義・枠組み

まずは一般的にユーザ理解(顧客理解)とは、何をどのように理解するものとして捉えられているかについて説明します。フォーマルな定義は見当たらないのですが、一般的にユーザ理解とは下記のような分析・解釈をする行為として捉えられていると考えます。

一般的に普及しているユーザ理解の定義
ユーザの行動・選択の理由を明らかにするために、ユーザの心理・認知状態(ニーズ、不満など)や、その裏側にある深層心理(価値観、性格、信念、潜在ニーズなど)を探求すること

分かりやすく言うと、「ユーザがコンビニでプレミアム缶ビールを購入したのは〇〇ニーズを有していたためであり、さらに〇〇ニーズを有していたのは△△の価値観を持つ人物であったからである」という枠組みで、行動・選択の理由(因果関係)を捉えるということです。このようなユーザ理解の定義・枠組みを、本書では「心理探求型のユーザ理解」と呼ぶことにします。(図表3-2)

心理探求型のユーザ理解についてさらにイメージを深めていくために、プレミアム缶ビールの事例を用いて具体的に説明します。例えば、あるユーザがプレミアム缶ビールのヘビーユーザである(=高頻度で購入している)理由を人間心理を探求することによって理解しようとすると、以下のようなアウトプットになることが想定されます。

Aタイプのユーザ
ユーザがとった行動・選択
・プレミアム缶ビールを高頻度で購入している(ヘビーユーザである)


表層的な心理・認知状態(ニーズ・不満)
・せっかくだから、美味しいビールを飲みたい
・発泡酒などの安い缶ビールだと、飲んでいてもあまり楽しい気持ちになれない


深層心理(価値観、性格、信念、潜在ニーズ)
・高級ビールを飲むことで、自らがステータスの高いポジションにいることを再確認したい
・自分に自信がない性格である

Bタイプのユーザ
ユーザがとった行動・選択

・プレミアム缶ビールを高頻度で購入している(ヘビーユーザである)


表層的な心理・認知状態(ニーズ・不満)
・頑張った自分へのご褒美だから、高くても美味しいビールを飲みたい


深層心理(価値観、性格、信念、潜在ニーズ)
・「自分にご褒美をあげるときは、出し惜しみしない」という価値観、信念を持っている

上記のような形で「人間の行動・選択の理由を、人間の内面に求めていく」というのが、心理探求型のユーザ理解の考え方となります。

現状ではこのようなユーザ理解の定義・枠組みを前提として、マーケティング戦略を考えたり、UX企画を考えることが一般的となっているのではないでしょうか。例えば、企業のマーケティング戦略を考えるシーンでは「弊社のサービスのメインターゲットは、〇〇な価値観を持つセグメントのユーザである」や「このところ競合サービスの売上が伸びているのは、△△のユーザニーズや◇◇といった不満に対応することに成功したからだ」といった形で、心理探求型のユーザ理解の枠組みを前提とした検討が行われるケースをよく見かけます。また、Webサイトの改善方針を考えるシーンでも「このユーザは▽▽のような潜在ニーズを持っていたから、Webサイト上でこのような行動をしたのではないか」という形で、ユーザ調査の結果を解釈しようとするシーンをよく見かけます。このように、現状では心理探求型のユーザ理解の枠組みを前提として、UX企画を考えることが暗黙のうちに前提とされているのです。

前提となっている人間観(心理主義的な人間観)

もはや自明かもしれませんが、心理探求型のユーザ理解では「人間には心(こころ)、深層心理があり、それが願い・欲求といった表層的な心理・認知状態を生み出し、それが行動・選択に繋がっていく」という人間の捉え方を前提としています。視覚的に表現すると、図表3-3のような枠組みで整理することができます。(図表3-3)

このような人間理解の枠組みを、本書では「心理主義的な人間観」と呼ぶことにします。このような人間観も私たちにとって慣れ親しんだものであり、マーケティング戦略を考えるシーンだけではなく、日常生活で誰かとコミュニケーションをする際においても暗黙の前提となっています。例えば就職活動のシーンでは、心理主義的な人間観に基づいて自己分析をしたり、面接で志望動機を語ることが定型化されています。「私は〇〇な人間だから、△△の仕事に就きたいと思い、◇◇社への入社を希望している」という自己分析・志望動機のフォーマットは、行動・選択の理由を人間の内面に求めていく心理主義的な人間観に基づいたものに他なりません。このように、心理主義的な人間観も暗黙のうちに前提とされているのです。

「心理探求型のユーザ理解」からUX企画を立案するプロセス

ここまでは「一般的に普及しているユーザ理解とは、どのようなものか」や「そのユーザ理解は、どのような人間観を前提としているか」といった論点・テーマについて説明してきました。ここからは「心理探求型のユーザ理解をもとに、どのようなプロセスでUX企画を考えることが一般的に正しいとされているか」という論点・テーマについて説明していきます。

心理探求型のユーザ理解からUX企画を立案するプロセスとして一般的に普及しているのは、ユーザの行動・選択の背景にある心理を探求すれば「まだ満たされていないニーズ・解消されていない不満」や「ユーザが心の底で潜在的に求めているもの・欲しているもの」が分かり、UX企画の立案につながる洞察(インサイト)を得られる…という考え方です。

心理探求型のユーザ理解から、UX企画を立案するプロセスについてイメージを深めていくために、ここでもプレミアム缶ビールの事例をもとにして具体的に説明します。例えば、プレミアム缶ビールのヘビーユーザの心理を探求することによってインサイトを発見し、UX企画を立案するプロセスを提示すると、一例としては以下のような流れになることが想定されます。

人間心理の探求によるインサイトの発見
・ 満たされていないニーズ、解消されていない不満
  - プレミアムビールの味に飽き始めており、マンネリ感を感じている
  - やっぱり飲食店で飲むビールと比べると、缶ビールは美味しくない
  - 自宅で缶ビールをもっと美味しく飲める方法を知りたいと思っている

・ ユーザが心の奥底で求めているもの、潜在ニーズ
  - 高級ビールを飲むことで、自らがステータスの高いポジションにいることを再確認したい


UX企画の立案
・ ビール缶のパッケージデザインを、よりステータス感が感じられるものに
・ ビールを美味しく飲めるようなレシピ・献立を提案するアプリを設計

上記はあくまでアウトプットの一例であり、実際のマーケティングの現場で活用されているものはもう少し様々な角度からの分析が加えられたものであると思います。ただし、基本的にはこのような枠組みで人間心理を探求することによって「満たされていないニーズ、解消されていない不満」や「ユーザが心の奥底で潜在的に求めているもの」を明らかにして、そこで発見されたユーザインサイトをもとにUX企画を考えていくようなプロセスであると考えています。

また、上記のような心理探求型のユーザ理解のアウトプットをベースとしつつ、自社のプロダクト・サービスを利用する代表的なユーザ像を設定し、実際にその人物が実在しているかのように年齢、性別、家族構成、居住地、職業、年収、ライフスタイルといった情報を書き足していくことによって、ペルソナを設定するようなアプローチも存在します。

以上が、一般的に普及しているUX企画の立案プロセスの代表的なフローであると考えています。一見したところ、ここで紹介した企画立案プロセスはロジックが通っており、このような枠組みに沿って考えていけばビジネス成果に繋がるUX企画を考えられるように見えるかもしれません。しかし本章の冒頭で説明した通り、一般的に普及しているユーザ理解の定義・枠組みは概念的に間違っているため、人間心理の探求に基づくUX企画の立案プロセスを採用していることがUX企画を考える業務を難しいものにしてしまっている、というのが本書の主張です。

心理探求型のユーザ理解が、「UX企画を考える仕事」を難しいものに

ここまでは、心理探求型のユーザ理解では因果関係を正しく把握できないことを説明してきました。しかし、現状は「心理探求型のユーザ理解」や「心理主義的な人間観」が暗黙の前提になっているため、UX企画を考える際には人間の内面・深層心理を探求していく考え方が一般的に採用されてしまっています。そこで、ここからは「心理探求型のユーザ理解が前提となっていることにより、UX企画を立案する業務にどのような悪影響が生じているのか」について説明します。

心理探求型のユーザ理解を前提とすると、私たちは正確ではない因果関係の理解に基づいてUX企画を考えていかざるを得なくなります。このことは「ユーザ調査・リサーチの結果からAというユーザインサイトが得られたために、Bという打ち手が必要である」といった形で、ユーザ調査の結果からUX企画をロジカルに導き出すことができないことを意味します。逆に言えば、現状のユーザ理解の枠組みを保持したままビジネス成果につながるUX企画を立案するためには、ユーザ理解によって得られたユーザインサイトから大きくロジック・発想を飛躍させなければならない、ということです。このことが、UX企画を立案する業務を「特別な才能・センス」や「豊富な経験・知識」のある人にしかできないような難易度の高いものにしてしまっている根本的な原因です。別の表現で言うならば、現時点におけるマーケティング調査やユーザリサーチから得られるユーザインサイトは、多くのケースにおいてUX企画を考える際に役に立つものになっておらず、結局は自らの才能・センスや経験・知識を頼りにUX企画を考えざるを得ない状況にビジネスパーソンは置かれている、ということです。

いかがでしたでしょうか?
ご紹介した内容は第3章の冒頭節ですが、今回紹介しきれず中略とさせていただいた部分にも具体的な例をいくつも交えながら、なぜ間違えていると言えるのか、どう捉えればよいのか、詳しく紹介しています。
本書では、前提となる時代観の理解から、実践に役立つ様々な手法や事例を豊富にかつ丁寧に盛り込んでおり、読み応えのある内容となっております。ぜひこの機会にお手元においてご活用いただければと思います。
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