2021.04.19 Mon.

【動画】AFTER DIGITAL BASIC(2) 『データの過信とUXの軽視』

2021.04.19 Mon.

UX型DX推進の基礎を知る『AFTER DIGITAL BASIC』。
今回は、行動データ活用の落とし穴とあるべき姿についてお話します。

お話している内容

  • 1.「データが売れる」という考え方は幻想
  • 2.鍵は「エクスペリエンス × 行動データ
  • 3.ビジネスと社会発展双方に必要な「UXインテリジェンス」
  • 4.DXの目的は「新たなUXの提供」

こんな方にお勧め

  • 『アフターデジタル』の内容を、チームメンバーに共有したい方
  • 『アフターデジタル』の要点を、もう一度振り返りたい方
  • 行動データを用いて顧客体験を高めたい、と考えている方

「データを集めればビジネスになる」の幻想

こんにちは、ビービットの藤井です。アフターデジタル概論2として、「データの過信とUXの軽視」についてお話しします。

連動している前回の動画、「アフターデジタル概論1」では、いかに行動データが重要になってくる時代か、そして行動データの時代はまさに「体験提供の時代」であるとお話ししました。ただ、行動データが重要であることは間違いないのですが、すると「いかに行動データを取るか」をメインの目的として考え始めてしまうケースが多いと思っています。

そうすると、顧客のデータをどうしたら全方位に取得できるか、データエコシステムを作るならどのパートナーと組めばいいのか、あるいは自社だけで保有するデータは利用価値が薄いのか、といった話になりがちです。総じて「どうやって超広範囲にデータを牛耳るか」に目が向いてしまうケースが多いですし、実際私も昔はそのように考えていました。

私が以前、生体データプラットフォームを作るプロジェクトに入っていたときのことです。そこではウェアラブルのデバイスを通じて分かる活動量や睡眠のデータを元に、他のサービスやアプリを開発したり、得られたデータを他社に販売したりすることが検討されていました。その内容を私はアリババさんに提案し、よかったら組みませんかと話をさせていただきました。

すると、「藤井さんの言うことは全部幻想である」という答えが返ってきました。「データエコシステムの構築やデータを販売するという考え方はよく出てくるが、我々が今まで実践してきた中で、そういったものは基本的には実現しない」と言うのです。

仮に10社でデータを共有する場合、各社で保有するデータはそれぞれ形が違います。それこそ、名前の間のスペースの有無、ひらがな、カタカナ、あるいはローマ字で保存されているかといった点が違うだけでも突合ができなくなるので、全データをクリーニングして統一しないと使えません。ここには、かなり膨大なコストと時間がかかります。

その際、10社に違う思惑があったら、このデータは「ウーロン茶」まで細かくするのか、「飲み物」でOKなのか、もしくは「食料品」程度でOKなのかがまとまりません。一社が「ウーロン茶」レベルを希望しても、他社からはコストをかけてまで合わせたくないと反発が起きたりして、なかなかうまくいかない。かといって、とにかくデータを合わせれば何とかできるだろう、と見切り発車をしても、あまりにコストがかかり、実現しないケースが多いのです。

ソリューションに変換して初めてデータの価値が生まれる

データの販売に関しても、同じように語ることができます。例えば当社が保有するデータを複数のクライアントに売る場合、各社それぞれデータ保存の形が違うので、こちら側でA社用、B社用といった形に整えて販売する必要があります。

これにもやはり、膨大なコストがかかります。かつ、そのデータがどのくらいのビジネスインパクトを生み出せるかを理解されていないケースが多いので、例えば1IDの値付けも非常に難しく、極端に安くなってしまう。つまり、作成時のコストと販売する値段が合わず、失敗する……と、アリババさんから説明を受けました。

加えて、私が挙げた「生体データ」の難しさも指摘されました。購買や視聴完了の有無といったデータはわかりやすいですが、例えば睡眠の波形のデータをどう扱えばいいのか。どの時点で浅い/深い眠りで、これは昼寝で、といった理解が必要になります。当然、普通の企業や普通の人には、睡眠の波形の生データからそれを理解することはできないので、波形の判断や活用までをデータ販売側がサポートしなければいけない。そこまでできないと、データは意味を成さない、と。

そうした部分も含めて、やはりデータはそのまま持っていても意味がなく、「ソリューションにして初めて価値を成すものだ」と教えていただきました。本当に、おっしゃる通りだな、と。

「Data is New Oil」、データは次の時代の石油であると言われていますが、石油も自動車を走らせるガソリンとして使ったり、プラスチックを作ったりと、何かしらのソリューションがあって初めて石油の価値が決まってきます。ですが、なぜかデータの場合は、貯めていれば何かそれが売れるようになると考えているケースがとても多いのです。これも石油と同じで、ソリューションがあって初めてビジネスとして成立するものになると思います。

行動データをUXに還元し、それをビジネス推進に活かす

前回の動画でも「行動データが重要だ」と強調しました。とはいえ行動データがそのままビジネスに転換できないなら、何に活用すればいいのかというと、「行動データはUXに活用・還元する」ことがいちばん重要なポイントになります。

追って別の場で詳細を説明しますが、例えば中国のタクシー配車アプリ「DiDi」は、まさに行動データを使ってUXに還元することでビジネスを推進できる構造を作れています。

もともと中国のタクシーは品質が良くはなく、接客レベルが日本とは大きく異なっていました。それこそ乗車拒否されたり、わざと遠回りされたりすることが普通に起こります。その中でDiDiではドライバーの給与帯をA・B・Cのように分け、サービス内でのドライバーのスコアによってレベルが上がっていく仕組みを作りました。一定の点数になったら初めて、上に上がる試験を受けられます。

そのスコアリングは、普段の配車サービスの中で遠回りをしていないか、危険運転やスピードオーバーをしていないか、あるいはユーザーからのメッセージにしっかり返信しているか、といった観点でつけられます。すると、自分の給料を上げようとすると必然的にスコアの獲得が必要になり、おのずと顧客体験を良くしていくようになる、という構造になっています。

ドライバーが頑張れば、それによってUXも高まり、皆がどんどん使うようになって、ドライバーもどんどん増えていく。こういう仕組みができると、ユーザー側にもドライバー側にも、サービス提供者であるDiDiI側にもメリットがある好循環が生まれます。実際、中国のタクシー配車アプリでは本当にDiDiが一強と言える状態になっている、ここが大きなポイントになります。

「エクスペリエンス×行動データ」のループを回す

このように、中国を見るとデータに目が行きがちですが、本質はやはりUXの方にあると思っています。行動データを得ようとしすぎると、行動データが得られないという、少しジレンマのような状況にもなっている。皆さんも、使おうと思って何らかのアプリをダウンロードしたのに、やってみると使いにくい、不便だとか自分に合わないなどで、一度も使わずに閉じることがありますよね。逆にたくさんの人にずっと使われ続けてこそ、行動データが貯まってくるという構造があります。

まさに「便利か」「ラクか」「使いやすいか」「楽しいか」といった高い体験品質があって初めて、行動データが貯まるのです。そしてDiDiの事例のように、貯めた行動データはそれ自体で儲けようとするのではなく、UXに還元する。そうすると、さらに体験が良くなって皆が使うようになったり、話題を呼んで新規顧客が流入して、さらに行動データが蓄積する。するともっとUXを向上できる……という、この「エクスペリエンス×行動データ」のループを作ることが、まさにアフターデジタル時代のポイントになると思います。

それを踏まえて今の世の中を見ると、得られたデータをそのままビジネス成果に還元しよう、金儲けに使おうといった考え方が一般化している印象を受けています。これはあまり、良くないことだと思っています。前提として、ここまでお話ししたように、得たデータをそのままビジネスに転換するのは極めて難しいということがまずあります。

その上で、例えばユーザに不義理なデータの活用の仕方をすると、SNSなどが当たり前の時代にはすぐに明るみに出てしまうので、ユーザから信任が得られません。さらにそうした例が続くと、世論として「データとかテクノロジーとは怖いものだ」と見られてしまいます。すると政府が規制をかけざるを得なくなったり、テクノロジーによる社会発展が止まってしまうこともあり得ます。

ビジネスとしてもうまくいかず、顧客に対しても不義理だし、社会発展も止めてしまう。そんな悪循環が生まれてしまうのが、データを金儲けに使う、ビジネス成果にのみ使う活動の結果になると思います。

DXの目的は、新たなUXの提供

考え方としてまず重要なのは、データをUXに還元して、ユーザと信頼関係を構築することです。先ほど申し上げた通り、こういったデータのUX活用は多数の事例があります。実際にユーザに多く使われるようになると、そこにECを連携させてマネタイズするだとか、もしくはレベルを設けて有料アカウントを作るといったことも可能になります。なので、「データをUXに還元する」ことを第一義とし、そこから生まれてきた好循環でビジネスを成立させるという考え方が、今の時代に不可欠になります。

書籍『アフターデジタル』、特に『アフターデジタル2』では、この考え方を「UXインテリジェンス」として強調していて、アフターデジタル時代のビジネスパーソンに必要な精神と能力(ケイパビリティ)だと解説しています。こうした精神性が、現代のすべてのビジネスパーソンが当たり前に持つべき考え方になることは、おそらく社会発展にも必要なことでしょう。また企業がデジタルトランスフォーメーションをしていく上でも必要な精神であり、考え方になっていくと思っています。

これを踏まえても、今よく言われているデジタルトランスフォーメーション、DXがシステムを導入することだったり、とにかくデータを集めることだと捉えられているケースは、あまり本質的ではないと考えています。

前述のように、良い体験が提供されるからこそデータが貯まり、好循環が起きていくことがまず重要です。そうすると前回の「概論1」の動画で解説したように、製品販売型から体験提供型に変わっていくというビジネスモデルの転換が起こり、体験提供の中でそのUXが高められていくとデータが得られる、という構造になります。

顧客と、今までとは異なる関係性を作っていかなければいけないのが、DXの本質の部分です。関係性が変わるとビジネスモデルも変わり、人事システムやビジネスオペレーションも後から変える必要はありますが、先にシステムを導入をしてオペレーション側を変えても、結局は顧客との関係性を再定義したときに改めて調整する必要が出てきます。

すると、「DXの目的は新たなUXの提供である」と考えるべきではないかというのが、この「アフターデジタル」が最も重視している根本的な考え方になっています。アフターデジタル概論はここまでにさせていただきますが、DXの目的は新たなUXの提供であることが、「アフターデジタル」の根幹にある考え方だとご理解いただければと思います。ありがとうざいました。

Newsletterのご案内

UXやビジネス、マーケティング、カルチャーに関して、事例や方法論などアフターデジタルのさらに先をCCO藤井保文が書く、ここだけでしか読めない書き下ろしニュースレターを毎週1回お届け。
アフターデジタルキャンプをはじめとするイベント情報や新着投稿もお知らせします。