2021.04.19 Mon.

【動画】AFTER DIGITAL BASIC(1) 『アフターデジタル概論』

2021.04.19 Mon.

UX型DX推進の基礎を知る『AFTER DIGITAL BASIC』。
今回は、UX型DXの検討に欠かせない、 「アフターデジタル」の基礎概念についてお話しします。

お話ししている内容

  • 1.捉えるべき「アフターデジタル」の世界観
  • 2.行動データの時代、体験全体への価値提供へ
  • 3.成功企業の思考法「OMO」
  • 4.「アフターデジタル」時代の産業構造
    - プラットフォーマー・メーカー・サービサー

こんな方にお勧め

  • 『アフターデジタル』の内容を、チームメンバーに共有したい方
  • 『アフターデジタル』の要点を、もう一度振り返りたい方
  • 「行動データ」「OMO」など、基礎概念の理解に漏れがないか確認したい方

デジタル浸透社会の到来

こんにちは、ビービットの藤井です。この動画ではアフターデジタル概論として、アフターデジタルの基礎的な部分をお話ししていきます。

まず、デジタル浸透社会の到来についてです。日用品の買い物をモバイルペイメントで行ったり、飲食もモバイルアプリで注文したりすることが一般化しています。中国ではシェアリングの自転車がかなり普及しており、完全にGPSでコントロールされているので、どこにでも乗り捨てが可能です。他にも、日本でも広がっているタクシーの配車アプリは、中国だと本当に日常的な移動手段として、初乗り200円ぐらいで皆が使っています。

こういったサービスは、中国や欧米では以前から使われていますし、日本でもコロナ以降、かなり普及し始めています。今後も中国のように拡大するかというと、賃金の価格帯や道路交通法など法律の違いもあって、まったく同じようにはいかないでしょう。一つひとつの事例を見ると、中国だから、アメリカだからできるといったこともあります。しかし一歩引いてみると、かなりグローバル全体の潮流であり、日本にも起きていることだとわかります。

一歩引いて見てみると、かなりグローバル全体に起きていて、日本にも起きていること、というふうに見えるんじゃないかなと思っています。例えば、オンラインがオフラインを覆い尽くして、もともとオフライン行動だった飲食や移動といった生活すべてがデジタルデータになって、個人のIDに紐づくことです。すると膨大な行動データが超高頻度に出てくる、これがかなり大きい変化です。逆に行動データがこれだけ得られる時代、これを使えないプレイヤーはどんどん負けていき、活用できるプレイヤーが勝っていきます。

ポイントは、まさに「デジタルが浸透していく」、つまり「オフラインの行動がデジタルデータになって残っていく」ことです。飲食店のPOSデータにも会計の履歴は残っていますが、個人がどこで買い物をし、どこで飲食をしたという一つのIDベースの行動履歴はこれまで残っていませんでした。そうした形でデータが残ることが、特に重要なのです。

オンラインがオフラインを覆いつくす状態

こうした潮流を踏まえて、「アフターデジタル」という言葉を使っています。アフターデジタルという考え方を提唱し始めた発端は、中国のデジタル企業の経営層と話がかみ合わないことでした。私は今、上海に住んでいますが、中国のデジタル企業と日本の企業の経営層に議論していただくと、どこか立脚点が違う感じがある。やはり中国は、すでにオンラインがオフラインを覆いつくしている「アフターデジタル側」にいるのだ、と実感しました。

まさに今、日本でも「デジタルトランスフォーメーション」が言われています。デジタル“トランスフォーム”なので、変態するとか変容するという意味合いがあるものの、しかし日本企業はまだデジタルに完全に変わりきってはいません。リアルに軸足を置きながら、デジタルを付加価値として“おまけ”のように活用しようと考えているケースが、とても多いと思っていました。

一方で中国では、もうデジタルは前提に、その中でリアルをどう使うかが考えられています。図の左側「ビフォアデジタル」の黄色い部分はデジタルとまったく繋がっていない、オフラインのリアルの部分です。この部分がどんどんなくなっていくのが、前述の「デジタルが浸透する」話です。行き切ると右側のように、リアルの部分はすべてデジタルに包まれていて、いつでもSNSやWebサイトやアプリでお客さんと接することができて当たり前で、その中でたまにお店に来てくれるといった形に変わってきます。

これを踏まえると、リアルは重要じゃないのかという議論も聞かれますが、まったくそうは思いません。リアルはむしろ、今まで以上に重要になってくるだろうと考えています。

確かに、フードデリバリーを頼む回数が増えればレストランに行く回数は減り、NetflixやHuluなどを観るようになると映画館に行く回数は減っていきます。だからこそ、たまに外出するならせっかくなのでいい体験をしたい、映画なら大きいスクリーンに適したものが観たい、などと思うようになる。今まで以上にリアルに期待する価値が高まる半面、接点の頻度は低くなるのが、今後のリアルの考え方です。

属性データの時代から行動データの時代へ

今お話ししたのは、それこそ社会の変化の話です。「アフターデジタル」という言葉は、基本的には社会の変化や時代の変化を示している言葉ですが、ビジネスにおいて重要なのは「属性データの時代から行動データの時代に変わる」ことです。

今までは属性データぐらいしか得られなかったので、属性をベースにした商品企画や市場規模の概算、あるいは属性ターゲティングなどしか行えませんでした。ただ、人間は属性で理解できるのかというと、20才の男性で居住地や給与も同じでも、全員一緒ではありません。さらに、仕事をしているとき、家族と一緒にいるとき、スポーツをしているときなど、1人の人でも人格や求めているものが変わります。

自分が運動しているときに、欲しかったビジネス書を渡されても戸惑いますよね。行動データが得られれば、その顧客のタイミングがわかります。ビジネスパーソンモードのときに適したビジネス書を提示したり、スポーツマンモードのときにその運動に合ったアドバイスを提供したりと、最適なタイミングで最適なコンテンツを、その状況や関係性に合ったコミュニケーション方法で提供できます。それが、行動データ時代に可能になった価値提供です。

例えば5年に1回車を買う、10年20年に1回家を買うなど顧客接点が低頻度の場合、なかなかそのタイミングがわかりません。かといって毎日接点があればいいのかというと、コンビニなどでの買い物習慣がわかる程度で、提供し得るコンテンツや商品、アドバイスなどの幅はとても狭くなります。

なので、今後は顧客やユーザの置かれた状況と、そこに隠されている悩みや成し得たい自己実現に対して、なるべく顧客に寄り添った形でソリューションやサービスを提供することが大事になります。こうした形の方が行動データをより活用でき、最適なタイミング、コンテンツ、コミュニケーションでの価値提供ができるようになります。行動データの時代は、企業競争の焦点が製品販売から「体験の提供」に変わっている点が大きなポイントです。

OMOの基本的な思考法

これを踏まえて、OMO――Online Merges with Offlineを考えてみます。これは、アフターデジタル時代の成功企業が持つ思考法、と捉えると良いと思います。

今、OMOという言葉は、それこそ小売やマーケティングなど各所で言われるようになりました。ですが、オンラインとオフラインを両方使わなければいけない、あるいは両方使えばもうOMOである、などと思われているところは少しもったいない。もう少し、本質に迫れると良いと思います。

OMOの基本的な思考法とは、オンラインとオフラインを分けずに一体として捉え、これをオンラインにおける戦い方や競争原理から考えることです。

例えばAIスピーカーに「冷蔵庫の中身を確認して、いつもあるものが足りなかったら買い足しておいて」と言ったとします。これはデジタルなのかリアルなのかと言われると、ちょっとよくわからない感じがしますが、ユーザからすると、いずれにしても自分が便利な方法で提供できればいい。社会はどんどんデジタルとリアルが融合してきて、境目がわからなくなってきていますし、ユーザ自身も一番便利な方法が提供されれば何でもよく、デジタルかリアルかは気にしていません。

そんな状況に対して、企業の構造は、やはりデジタルの部署とリアルの部署が分かれているケースが多いです。デジタルの専門性を持ったチームがいること自体は良いことですが、では同じような顧客体験を提供できているのかというと、まったくそうではなかったり、連携したKPIも持てていなかったりします。

つまり、完全にデジタルとリアルが分断されているのが、今の日本企業に多い構造かと思います。社会の状況や一般の人々の認識と、企業の構造が乖離してしまっている。これではうまくいかないですよね。

UX起点でビジネスプロセスを組むのがOMOの本質

そこで、OMOという考え方が出てきます。ではOMOはどういう考えなのか。先ほどのAIスピーカーを、今度は逆にビジネスプロセス側から見てみるとわかりやすいと思います。AIスピーカーと家にあるIoT冷蔵庫が連携し、私がいつも買うものや購入のサイクルが把握されていたら、その都度足りないものを判断して、連携している近くのネットスーパーに注文する。住所もわかっているので、ロジスティクスでちゃんと私の家まで荷物が届けられます。

ユーザの体験としては「こんなものを買っておいて」と言っているだけ、あるいは「買っておいて」とだけ指示する非常に短くて便利な体験でも、その裏ではシームレスな体験提供のために異業種のさまざまなプレイヤーがデータを連携しないといけない、すごく大変なものです。

今までは、ビジネスプロセス側を組んでから、ある程度のユーザ体験が決まる側面が強かった。ですがOMOという考え方ではむしろ、この理想的な体験を提供するために、どうビジネスプロセスを組めばいいのか、という順番で組まれていきます。

つまり顧客体験、UX起点でビジネスプロセスが組まれ、その際にはデジタルもリアルも関係なく提供される――これがOMOの本質だと考えています。ビジネスプロセス中心主義から本当にUX中心主義に変わる、大きな概念転換だと捉えていただけると良いと思います。

行動データを活用する時代の新しいヒエラルキー

では、行動データが出てくる時代の、新しいヒエラルキーについて解説します。中国では完全に到来していますし、日本でもこれを志向しているような状態にあると思います。

今までの属性データしか得られなかった時代、あるいは製品販売型のビジネスが強かった時代の基本的なロジックは、良い製品をなるべく高効率で作れて、皆に届くことでした。

一方、行動データ時代、あるいはアフターデジタル時代の産業ヒエラルキーでは、このロジックが変わっています。いかに多く行動データを取得し、顧客やユーザの状況を細かくたくさん理解できているか、それに対して価値提供できているか、といった観点が出てきています。

すると現在、大きく3段階にレイヤーが分かれてきています。一番上に立つのが決済プラットフォーマーです。それこそ中国だと、アリババやテンセントが、それぞれ、AlipayやWeChat Payを出しています。ペイメントの強みは、その下に移動や飲食、娯楽など各種のサービスがついてくるので、さまざまな業界に水平に入っていけることです。多様な行動のデータが得られる上、ペイメントだとその人の支払い能力や購買の好みもわかる。そうしたデータは価値が高いことが、大きなポイントです。

2段目は、今度は垂直に分かれ、飲食や移動など業界ごとに強いプレイヤーが生まれてきます。圧倒的なUX、ユーザエクスペリエンスによって多数のユーザ数を抱えるプレイヤーが、ここに君臨します。

一番下が、メーカーのレイヤーです。なぜこうなるのかというと、上のプレイヤーが持っているデータがないと市場が正しく理解できないとか、顧客接点もすべて上のプレイヤーが持っているために、彼らの場を借りないとモノが売れないという事態になるからです。そのため、どうしても隷属するような形になってしまうのが、今のアフターデジタル時代の産業構造の難しさです。

新しいヒエラルキーは日本でも構築されつつある

このような中国での潮流は、日本には来ないのではという話もよく聞きます。ですが、例えばPayPayが100億円ものコストを投じてペイメントを広げようとするのは、一番上のレイヤーを狙っているからだと読み解けます。LINEとYahoo!が経営統合しましたが、その理由も、やはり一番上のレイヤーを狙っているからではないでしょうか。

他にも、トヨタ自動車が数年前から「カーメーカーからモビリティサービサーになる」と打ち出しているのも、一番下から2段目に上がる活動に見えますし、最近ではペイメントサービスも始めて、一番上の能力も備えようとしています。このように、今、日本で起きていることも、かなりこの構造をなぞって動いていると思います。

すると、アメリカにはペイメントのプラットフォーマーはいないのでは、という話も挙がりますが、この決済プラットフォーマー、サービサー、メーカーという言葉は中国や日本の状況に即してわかりやすく表現しているだけです。実際には一番上のプレイヤーが「行動データを水平に統合して獲得している」、2段目のプレイヤーは「行動データを業界ごとに垂直に統合している」、そして一番下のプレイヤーは「行動データをほぼ得られていない/活用できていない」という状況になります。

その意味では、それこそアメリカだとGAFA、GoogleやAmazonといったプレイヤーがOSや検索を押さえる形で一番上に位置し、ビジネスのハブになるような行動データを取得できている。これが大きなポイントです。なので、アメリカでも同じようなことが起きていると言えます。

今、日本でも、このアフターデジタル時代に脅威を感じているプレイヤーがたくさんいると思います。これにどう対応していくか。UXをいかに提供して、そこで行動データを取得し、さらにUXを高めていくのかが、この後のキーポイントになってきます。それはまた別の動画でご説明します。ありがとうございました。

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