2021.08.19 Thu.

行動・心理・状況からマーケティング・事業を見る

この記事では『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』などを書かれた西口 一希さんとの対談を、少しだけお見せします。 今回、抜粋してご紹介するのは、西口一希さんをお招きして、「人間理解」の真髄とビジネスの関係性を議論をした、AFTER DIGITAL TALK「行動・心理・状況からマーケティング・事業を見る」です。 本編をフルで見ることもできますので、内容にご興味を持たれた方は、記事の末尾にあるリンクからフル動画の公開URLを手に入れてください。

西口さんの語る「あるべき3つのDX」とは

西口さん:
大手スーパーのレジに行くと、大体セルフレジがありますよね。自分でレジをやって、スマホペイメントでも払えるし、カードでも払えるし現金でも払える。あそこをよく見ていると、多くの50代以上にとっては、やっぱり不便なんです。分からないし、使いにくいし、どんどんメッセージ出てくるし、結局その周辺に店員さんが1人付いてたりするわけなんですよね。

あれがアフターデジタルの便益になっているとは僕は全く思わないんですよ。「これまで習慣化してきたことを捨て去らなきゃいけないデジタル提案」というのは大体上手くいかないんですよね。
大体の場合、役に立たないDXをやろうとするケースが多く、DXやる限りは、最終的にはお客様に対して便益で返さないといけないんですよ。お客様に利便性の発生しないDXなんてそもそもいらない訳で、DXをやるなら、最終的に誰のための何の便益でやっているのかという事を明確にしないといけないんですね。

藤井:
なるほど。よく分かります。

西口さん:
それを紐解くと、最終的な利便性をもたらすDXは3つしかないと思っていまして。
ひとつは業務のDX。ものづくり、サービスづくり、お客様対応など、既存の会社の仕組みがあって、それを人を減らしてデジタル化して自動化して、デジタルのツールなりデジタルの技術を使って無駄なコストをゼロに下げてゆく、と。コストが下がればその分価格を安くしてお客さんに安い提案ができるかもしれないし、もしくはそれで儲かったお金を開発費に回して、より便益の高い商品・サービスを開発することもできるという事で、最終的にお客様に返すために業務のDXがあります。

次の事業のDXが何かというと、物理的な世界でしか提供できなかったものが、デジタルの世界を通じても提供できるようになると。端的にいうとeコマースがそうですよね。本屋さんにも今の若い世代は行こうと思わないわけじゃないですか。Amazonで提供しているものも、多少kindleで読めるものも提供していますけど、まだ売上の多くが実際の紙ですよね。これは物理的な世界で提供していたものをデジタル世界でも提供できるしようという事で、デジタル対応したところですよね。でも提供しているサービスとかモノ自身は変わってないわけですよ。デリバリーの仕組みがある、ピックアップの仕組みがある、ECで対応できるという会社が、今回、コロナの中でもあまり影響を受けなかった。この仕組みをコロナの危機で急激に作ったところは、かなりグダグダになってしまっている。事業のDXというのは、電気自動車も入りますね。デジタルを入れることによって利便性がどんどん上がって、ディーラーがなくても買えるっていうのもそうですよね。

3つ目は空想のDXと呼んでいます。空想とか夢想とかいろんな言い方をしているんですが、物理的世界だったら提供できなかったような利便性や便益を作り出すものです。例えば、広告費を払いながらSNSを楽しむというのは、物理世界では成立してなかった。井戸端会議とかサークルとか小規模なものはあったが、ここまでいろんな人とつながって情報交換できる、というのはデジタルだからできたこと。

例えばNetflix。皆さんご存知だと思いますが、元々DVDのレンタル屋さんが郵便でDVDを家に届ける事業からスタートしているんですね。彼らはDVDを5・6枚紙封筒に入れて送って、「飽きたら返してください、新しいもの送りますから」というビジネスからスタートしています。若い世代の人はNetflixってめちゃめちゃイケてるデジタルの会社だと思ってるかもしれないですけど、泥臭いことをやってたわけですよね。それで潰れかけて、死ぬか生きるかしかないとなり、結果として彼らが今、サブスクリプションの動画サービスをやってますよ。コンテンツも自ら作成し、更には無限のストーリーエンディングができる作品を作り始めてるんですよね。これは、デジタルの世界だからできることなんですよ。ストーリー展開を可変にしていって、見ている側が選んだり、観ている側のエンゲージメントに合わせてストーリーを変えていったりと、マルチエンディングという事を提供しはじめています。

藤井:
Netflixオリジナルコンテンツの、ブラックミラーにある「バンダースナッチ」とかがまさにそんな感じですよね。

西口さん:
そうですね。究極にいくと、たぶん無限シナリオが可能になるはずなんです。これは物理世界ではできなかったことなので、これも楽しいじゃないですか。それも最終的には、それに価値を感じてお金を払いたい、時間を使いたいという便益を生み出すという事です。この3つに整理すると実はめちゃくちゃ簡単なんです。
少しアカデミックな言い方すると、マイケル・ポーターの言う「コストリーダーシップ」はコストダウンをどこまで突き詰めるかという業務の話です。日本はここが強かったはずなのに、ここ20年くらいいちばん後進国になってしまったんです。今「ワクチンが打てない」とかはこの話ですよね。業務DXができないところは事業DXができないし、事業DXすらできないところが空想のDXなんてできるはずないんですよ。
ですが、一足飛びにいろんな会社が今、空想のDXに入っていて、「スタートアップに対してウチは何とかしなきゃいけない」と、よくわからない事業を立ち上げたり、代理店さんにいろんなお金を取られたりしている、というのが現状になっているかなと思います。

マーケティングとブランディングの功罪

西口さん:
日本ってやっぱり職人気質なのか、作り手本位、プロダクトアウトで自分目線になることが多いですよね。

藤井:
分かりますね。僕たちも、「ユーザ視点と言ったときに、ユーザの顔が浮かんだら負け。ユーザが見てる視野が浮かばないといけない」と言ったりするんですが、私がコンサルやっていても、多くの企業が実際のユーザに会いにいかないですよね。ユーザ自身の視点を獲得しにいく、学びに行くという事をあまりやらない傾向にあるなと思っていて。

西口さん:
なぜ、お客さんの話を聞きに行かない、お客さんに会いに行かないという流れが強まったかというと、マーケティングが流行ったからなんですよ。

藤井:
おお、西口さんがおっしゃいますか(笑)

西口さん:
自分も、マーケティングという言葉は気をつけて使おうと思ってるんですよ。本当にダメだと思っていて。

マーケティングの歴史を紐解けば分かるのですが、本当に簡単に言うと、60年代からマーケティングという言葉が頭角を現し始めて、顧客や消費者という話と一緒に出てきていたんですが、だんだん弱くなってきて、コトラーさんが書いたマーケティングマネジメントあたりから、4Pとかが有名になったんです。4Pをマーケティングだといってる代理店さんとか多いじゃないですか。あれは大間違いで、もう一回マーケティングマネジメントをちゃんと読むと、真ん中に本当はCがあるんです。コンシューマー、カスタマーに対して、何をすべきか・どうアプローチすべきかを考える時に4つのPで整理すると整理しやすいですよ、と。

なんですが、書籍の中では、4つのPを説明するときにセクションを区切ってしまって切り離れちゃってるんですよ。手前に書いてあるんです。
4Pの概念自身はコトラーさんではなくて、共著の方が真ん中にCを入れて周りにPを配置したフレームを提唱されているんです。それを受け取って、コトラーさんが何百ページも解説しているんですけど、実はみんな理解できないんです、あれ。結果、前半言ってたこと忘れてしまって、4つのPというのがわかりやすいから、あのフレームだけ抜き出してみんな使ってしまった結果、C不在の手法に走っていったんです。

藤井:
なんと、そんな歴史的背景が... しかし、日本人がなのか、元来の目的を失いがちなところがありませんかね。(笑)

西口さん:
日本人はもともと目的意識を失いがちな性質、あると思いますよ。なぜこうなったかは分からないですが、ルーティンや作業が大好きな傾向があるというか。
例えば中国の人って、すごくベネフィットを気にするじゃないですか。「それやって何になるの、誰が得するの」という話になりやすく、ある意味日本人よりはるかにアメリカの方に近いプラクティカルな感じするんですよね。アメリカ・イギリス・中国って実は似てると思っていて、目的設定と「それをやることで誰が得するか」を重視する、という話です。

藤井:
自分でDX支援の活動していたり、中国で暮らしたりしていても、そこは仰る通りだなと思っていて。アフターデジタル2でも「DXの目的は新たなUXの提供だ」と言っているんですが、もしかしたら目的の話はしない方がいいんですかね...

西口さん:
私も多くのクライアントに対して支援していますが、最初の入り方は確実に皆さん一緒ですね。いろんな課題をお持ちでいろんなご相談を受けるんですけど、目的がないんですよ。
売上上げたいとか業績伸ばしたいとかそういうのはあるんですけど、「何の課題解決を目的として、何を目的として僕に声をかけていただいているのか」が、よくよく聞いてみると存在しなかったり曖昧だったりするから、そこからスタートなんですよね。目的の設定、課題の設定からスタートなんです。

話を戻すと、まず「マーケティング」という言葉が広まったときに、Howの話に行ってしまいましたと。このあとSTP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)も入ってくるのですが、例えば一つのブランドのロイヤルユーザーさんをちゃんと分解すると、5つぐらいのセグメントに確実に分かれるんです。ですが、マーケティングのHowの流れを組んだマーケターが「これがブランドエクイティです、これがポジショニングです」みたいなことを掲げてしまう。結果、その5つのセグメントを平均したようなことを言っていて、「それは一体誰なの?」ということになるんですよね。

日本にマーケティングなんかなかったんですよ、80年代まで。マーケティング部門なんて存在しないし、僕がP&Gに入った1990年もマーケティングじゃなかった。宣伝本部、アドバタイジングだったんですよ。

90年代あたりから、ものづくりがお客さんから離れて、モノを売る手法としてのマーケティングにいって、「お客さんが実際に何をしているのか」という視点がなくなって、手法に走り始めた。そもそも「誰に何を売ってたっけ」という事を忘れて。

藤井:
もうその時点からそういう流れになるんですね...

西口さん:
それにさらに輪をかけたのがブランディングなんです。僕もさんざんブランディングをやりましたが、実は結構アンチブランディングなので。ブランディングというのはほとんどの場合結果なんですよ。素晴らしい、世になかったような便益を持った商品を売ることによって、凄い体験が生まれて、ユーザがそれを大好きになってどんどん使っていこうという気持ちになった時には、既にブランディングができあがってるんですよね。

ところが、マーケターとかブランドマネージャーはブランディングとはどうあるべきかというところから考えてしまって、ブランディングをお客さんに押し付けようとするんです。これを広告やデザインに落としたり、ロゴ変えてみたり色変えてみたり、ウチにはこのタレントは似合いませんからこのタレントです、みたいなことをやる。そういう、便益性(中身)が考え抜かれていない、ただの「ガワ(外側)」としてのブランドを押し付けるマーケティング(ブランディング)論が世の中に出てきてからおかしくなった。心ある経営者はこれを信じていないです。ブランディングは怪しいと思っているんですよ。

藤井: 
なるほど... 歴史から紐解かれると、その流れが本当にあるように思うし、僕が違和感を感じているところともつながります。そうすると、まさにユーザ視点を踏まえた価値の話、便益と独自性という話をここからはしていきたいと思います。

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