2022.07.07 Thu.

「UXは専門家に任せる」という幻想

2022.07.07 Thu.

「UXは専門家に任せる」という幻想
隔週木曜日にニュースレターを配信しております。その中から、今回は【Vol.32 「UXは専門家に任せる」という幻想】をお届けします。 UXインテリジェンス協会では、『UX検定 基礎』が公開され、応募受付が開始されました。構想としては足掛け1.5年で、ようやくローンチできました。今回は、UX検定の必要性や内容を一部ご紹介いたします。

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「UXは専門家に任せる」という幻想

全員持つべき基礎知識

『UX検定 基礎』は、4択形式で100分100問を回答するもの。位置づけとしては初級編で、UXの専門家でない人たち(Non-UXer)をメインターゲットにした基礎試験です。

とは言いましたが、あくまで基礎であるというだけで、UXに一応10年以上たずさわっている私が試しに受験してみても、普通に間違ってしまう問題があったりします。「あ、UXハニカムの7要素って何だっけ... 昔やったよな...」とか、「UXデザインの5段階モデルって、この順番であってたかな...」など、専門家が専門家を自称するにあたって、基礎理論の全体像を確認するためにも使えます。

例えば、以下PDFのシラバスを見ていただくだけでも、「あ、このあたり、自分あんまり詳しくないな」というのが分かりますし、Twitterでも、「UXリサーチャー入門してから1ヶ月が経ったけど、UX検定のシラバスをざーって見るとまだinputできてない範囲が一目瞭然なのめちゃ有難い」といったコメントも見られました。

https://www.uxia.or.jp/certification/202205_ux_syllabus.pdf

ですので、ベテランはあらためて全体像を把握し、経験の浅い初級者は自分の立ち位置の確認と足りないところを学習する、という使い方ができます。

しかし、一番の狙いとしては「UXに注力する企業が、一般社員も含めてみんなで取る資格」を目指しています。それはなぜかと言うと、UXは専門家だけが取り組めばいいのではないからです。

「UXには取り組みたいんだけど、市場に人数もいないし、採用がなかなかできないんだよね」

こんな話をよく聞きます。これはエンジニアやデータサイエンティストでも同じです。

一方で、「UXデザイナーやデータサイエンティストを雇ったが、全く活躍しておらず、DXが進んでいない」という話も聞きます。

なかなか採用できないのに、採用したらしたでうまく機能しない。地獄ですよね。

なぜUX検定は「一般向け」なのか

なぜ活躍ができないか、という疑問には、データサイエンティストの例が一番わかりやすくハマると思います。これは、「何にどうやってデータを使えばいいのか、仮説がないから」という理由がほとんどで、「データのことは分かるけど、業界のことも会社のことも顧客のことも良く分からない」ので、結局使いどころが正しく理解されず、もう既にできるようなことしか思いつかない、となってしまうわけです。

とある小売企業では、データサイエンティストを雇うと、数か月現場に立たせるそうです。レジ打ちをして、バックヤードで在庫確認や仕分けをしていると、ようやく肌感が身についてきて、「あのデータをこうして繋げればこの業務がもっと改善できるのに」とか、「レジに並んでいるこの人たちがこうなればもっと便利なのに」といったことが思いつき始め、データが活きたものになる、と。

UXだと、こうした「肌感がない」というのは起きにくいです。なぜかというと、そもそもユーザリサーチや業務プロセス理解が「やるべきこと」のうちに入っており、その人たちを理解するところから始めるからです。

しかし、それでも「UXの専門家を雇ったのに効果が出ない」というケースは多く見られます。以下のような理由からです。

  • ユーザ理解からより大きなインパクトが得られる問題が見つかるのに、企業側がそれを受け止められない。
    多くの場合、「あなたにやってほしいのは使いやすさの部分」と思っていたりして、重要な要件が決まった上で限られたことしか取り組ませてもらえず、UXデザイナーが本領発揮できない。
  • ・顧客接点は膨大にあるのに、限られたUXデザイナーが触れる「ごく一部」しか体験が良くならず、ユーザから見ると穴だらけ。

これを解決しようとするには、以下のようなアクションを取る必要があるでしょう。

  • 意思決定プロセスにUXer、デザイナーを入れる。
  • 社員全員がUXのスコープを理解し、総力戦で取り組みつつ、専門家がそれをブーストするような、「ジェネラリストとスペシャリスト混合」構造にする。

お分かりの通り、これは本当にやろうとしたら、とても難しい。なぜなら、経営としての意思決定や、社員全員のマインドセットの変更が必要になるからです。

意志決定プロセスからUXを担う人が入ったり、「UXは専門家だけの仕事じゃない!あらゆる顧客接点で、より良い体験を作っていくような、全員参加の総力戦なんだ!」と皆が思わないといけない。

だから、UX検定は「UXに注力する企業が、一般社員も含めてみんなで取る資格」になることを目指していて、これによってUXに携わる人たちが理解される社会になり、結果企業にとってもユーザや社会にとってもインパクトの大きいことが起きる、ということを狙ったものなのです。UXをやる人が活躍できるようになってほしいし、その方が良い社会になるよな、と思っています。

HCD-net(人間中心設計推進機構)に感謝

と、偉そうに言っていますが、この思想をUXインテリジェンス協会(通称UXIA)に持ち込んでくださったのは、HCD-netの皆さんでした。人間中心デザイナーではない人たち向けに、こうした思想に基づいてデザイナーを理解してもらうための試験が、すでにかなり高い精度で作られていたのです

ただ、HCD-netは、UXをはじめとする人間中心デザインの経験者に、「あなたはスペシャリストです、専門家です」という認定証を提供することを生業としていることからも、そもそも「デザイナーではない人」があまりいないですし、そういう方々に知られにくい組織である、という特性があります。

一方でUXインテリジェンス協会は、「UXアプローチを自社に浸透させたい」という企業が主な対象になっています。UXの専門家でなくとも、UXが自社の活動において重要である、または今後重要な位置づけにしなければならない、と思っている人たちが中心なので、この思想とも合う組織でした。

HCD-netで理事長をやられ、UXIAで理事をお願いしている篠原さんが、この企画と適性をつないでくださったので、一緒に創り上げることができました。篠原さんをはじめ、HCD-netの皆さん、UXIAで立ち上げ頑張ってくれた皆さんに本当に感謝です。

もっといろいろやらんと変わらん

じゃあ「資格試験をつくったからって世の中変わるのか」といったら、当たり前ですがそうは問屋がおろしませんよね、と。

全体像をこんな風に捉えています。

今回はこの図からすると、段階3にあたるんですよね。すでに「UXやらんと、企業生き残れんやん」と思ってる人たちに届くものである、ということです。

UXIAに入ってくださっている企業ならまだしも、多くの企業はまだ段階1にいます。先に書いたような、「意思決定プロセスにUX担当を入れましょう」とか「社員全員、総力戦でUXに取り組みましょう」と言っても、全く伝わらない。

なので、ここに書いてあるような活動を、UXIAやビービットを通して今後もやっていくつもりです。仲間になりたい、変化を起こしたいと思ってくれた方、是非一緒にやっていきましょう。

UX検定は7月21日〆切、8月6日に試験実施です

というわけで、皆さんまずは受験です。

課題図書は4冊ですが、おそらく、このニュースレターを読んでいる人は半分で済むでしょう。

  • アフターデジタル2 UXと自由
  • UXグロースモデル アフターデジタルを生き抜く実践方法論
  • 人間中心設計入門(HCDライブラリー第0巻)
  • ユーザビリティエンジニアリング: ユーザエクスペリエンスのための調査、設計、評価手法

あと、そんなに問題は難しくありません。ちなみにベータ版テストの最高得点者は、ビービット代表でありUXIA理事長の遠藤だったそうです。さすがじゃん!!やるじゃん!!!

では皆さん、お待ちしています!
https://www.uxia.or.jp/certification/

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