2021.12.23 Thu.
グロースハックとは? UXグロースとの関係や役立つ事例を紹介
2021.12.23 Thu.

目次
- グロースハックとは? 言葉の意味とその目的
- フレームワーク「AARRR」と「マイクロモーメント」
- グロースハックを進める上での注意点
- グロース思考で行ったUX改善成功事例
- 数字だけでない「体験」にフォーカスしたUXグロースを
グロースハックとは? 言葉の意味とその目的


「グロースハック」とは、ウェブサイトやアプリから得た行動データを活用し、改善することでビジネス成果を上げていくことを指します。最初に登場した際は“growth hacker”という形で、「成長」を意味するgrowthと「コンピューター技術に精通した人」を指すhackerを合わせた造語でした。この言葉は、世界的なシェアを持つオンラインストレージサービス「Dropbox」を創業初期に急成長させたショーン・エリス氏が生み出しました。
ショーン・エリス氏はDropboxの市場拡大に大きく貢献しましたが、彼の提唱するグロースハックの目指すところは新規顧客獲得だけではありません。
行動データを使ってUX(ユーザエクスペリエンス、顧客体験)を向上させ、より良い体験を得たユーザが繰り返しサービスを利用するようになり、さらに集まった行動データをもとにまた改善していく……というループを回すことで成長につなげていくのです。
従来のマーケティング手法との違い
従来のマーケティング手法は、製品を販売することをゴールに見据えて販促活動をするファネル型でした。しかし、近年の急速なIT化やスマートフォンの普及にともない、この方法は通用しなくなってきています。これに対しグロースハックの手法で求められるのは「顧客が成功すること」(自己実現を果たしたり、よりよい生活が送れたりするなど)を目指すジャーニー型のマーケティング手法です。


ジャーニー型で成功している例としては、中国の保険会社「平安(ピンアン)」の取り組みが挙げられます。従来の保険商品は、一度契約したら被保険者が怪我や病気をしなければユーザと会う機会はありません。契約も自動更新になっていると、ユーザと企業の接点はほとんどありませんでした。そこで平安は「平安好医生(ピンアングッドドクター)」という医療系アプリを立ち上げました。
中国では医療への信頼が薄く、なにかあったときには多くの人が大学病院や大病院へ行きます。すると、人気の高い病院は非常に混雑し、診察が申し込みから数日後になってしまうこともざらにあります。診察受付の整理券が高値で売りに出されることも珍しくありません。


ピンアングッドドクターは、ポイントを利用して信頼できる医師へ時間指定での診察予約ができたり、無料チャットで医師へ年中無休で相談できたりと、医療におけるペインポイント(ユーザの悩み、困りごと)を解決するサービスを展開しています。チャットでの相談内容はテキスト分析していて、タイミングを見計らって営業から保険に関する電話をかけることもできます。
平安は、「便利なアプリでユーザの生活に入り込み、困っているときに手を差し伸べることで感動体験を生み出し、得たデータを使って利益を生み出す」というグロースハックのループ作成に見事に成功しています。
フレームワーク「AARRR」と「マイクロモーメント」
ここでは、グロースハックを進める上で知っておくと便利なフレームワーク「AARRR」、そしてスマートフォンの普及によって生まれたユーザ行動に関する新しい概念「マイクロモーメント」を紹介します。
グロースハックにおける「AARRR」モデルとは?


「AARRR(アー)」モデルとは、①獲得 (Acquisition)、②活性化 (Activation)、③継続 (Retention)、④紹介 (Referral)、⑤収益 (Revenue) の頭文字から名付けられた、5段階のフレームワークです。
- 獲得 (Acquisition)
潜在顧客が最初に製品やサービスを発見するチャネルはどこか。まずはSEOやソーシャルメディア、口コミを活用して顧客との接点を増やすことが何より重要です。 - 活性化 (Activation)
顧客は製品・サービスを調べるためにどのような行動を取っているか。メルマガ登録や問い合わせ数の向上を目指しましょう。 - 継続 (Retention)
顧客にその製品・サービスが継続して利用されているか。定着率が悪い場合、どこに問題があるか。アクセスログやメール開封率の確認から始めてみるのがおすすめです。 - 紹介 (Referral)
既存顧客が推薦したくなるようなサービスになっているか、また推薦してもらえるような仕組みはできているか。紹介プログラムやソーシャルメディアでの宣伝が有効です。 - 収益 (Revenue)
そのビジネスは利益を上げることができているか。顧客獲得にかけるコストを超えること、損益分岐点に達することを目標に上記取り組みのPDCAを回していきましょう。
ユーザを獲得し、サービスや商品を実際に使ってもらい、リピーターを作り、紹介によって利用を広め、それぞれのユーザから利益を最大化するというのが一連の流れです。
マイクロモーメントを見てデータを正しくとらえる


集まった大量のデータをグロースハックに活かすには、「マイクロモーメント」を見る必要があります。提唱したGoogleはマイクロモーメントを以下のように紹介しています。
「マイクロモーメント」とは、人々が「何かをしたい」と思い、反射的に目の前にあるデバイスで調べたり、購入したりという行動を起こす瞬間です。マイクロモーメントを的確に「見極め」、生活者が求めている情報を「届け」、 そして効果を正しく「測定」すればモバイルが生み出す価値を最大化することができます。
引用:生活者の意図を捉えるマイクロモーメント (Micro-Moments) https://www.thinkwithgoogle.com/intl/ja-jp/marketing-strategies/search/micro-moments/
スマートフォンやタブレットといったモバイルデバイスが広く普及した結果、ユーザは何かしたいと思ったとき、すぐに求める情報を検索できるようになりました。
PCであれば時間をかけてじっくりと画面を見ることになりますが、スマートフォンの場合、移動中や仕事の合間、手持ち無沙汰になったときなど、検索にかける時間はかなり細切れになります。その細切れの時間で、ユーザが置かれている状況をとらえることが重要なのです。
例えば、ECサイトで離脱率の高いページがあった場合、従来では「顧客が求める情報が載っていなかったからではないか」と、そのページ自体に問題があると考えられていました。しかし、ユーザの個別データを見てみると、単に同一のユーザが何度も同じ商品ページを見ていたことがわかりました。前述のようにスマートフォンでは細切れの利用が可能なので、通勤中に10分、始業前に1分、昼休みに5分同じページを見ていたとしても、3回の離脱があったとカウントされていたのです。
このように、データを正しく利用するためには、大勢のデータを数値としてまとめたものではなく、個別でユーザの行動をとらえる必要があります。ビービットでは、個別ユーザの行動を一連の流れで捉えながら「多くの人に共通した行動の流れ」に着目する、「シーケンス分析」という手法を展開しています。
グロースハックを進める上での注意点
ウェブサイトやモバイルアプリは、「データが取れるから施策の効果が可視化される」とよく言われます。実際、DAU(1日あたりのアクティブユーザ数)やMAU(1月あたりのアクティブユーザ数)、PVやCVなど、指標を定めてとにかく改善を図るのは重要です。
一方で「様々な数値をみているが、本当に施策が効いているのかどうか分からない……」といった声もあります。ここではグロースハックを進める上で気を付けるべきことについてお伝えします。
定量分析だけでは施策の効果が分からない
例えばあるECサイトでは、購入データをもとに定量分析を行った結果、購入回数と継続率の間に強い相関があることが分かりました。そこで継続率を高めるために、既存顧客向けに再度購入を促すキャンペーンを実施しました。
結果として、購入はされたのですが、その後の動データを追ってみると、キャンペーンで購入した顧客の継続率は全く向上していなかったのです。これは施策を行ってCVは上がったものの、施策が顧客にどのように影響を与えCVが増えたのかという因果が分かっていなかったことが原因なのです。
グロースハックでは、指標を決め数値改善のためにPDCAを回していきますが、上記のように数値だけでは顧客を理解することは難しく、真の意味でサービスをグロースさせていくことはできないのです。
サービスをより成長させるためにも、施策を行う際は、「指標が改善されたか」だけでなく、「顧客体験が想定していたものになっているか」も確認する必要があります。
グロース思考で行ったUX改善成功事例
ここでは、実際にビービットが支援させていただいたグロースハックの事例をご紹介します。
「定性分析」で仮説の精度を高めるIDOM流グロースハック
中古車販売・買取を手掛ける「ガリバー」を運営するIDOM様にて、買取査定の申し込みや店舗への問い合わせができるWEBサイトを運営していたデジタルマーケティングの担当者は、定量的なデータ分析によるCV上昇に限界を感じていました。そこで注目したのが、ユーザ単位の行動データです。しかし、一人で大量のログを見るのは大変で、途中で挫折したそうです。
そんな状況下で導入いただいたのが、顧客の状況を可視化できるビービットのツール「USERGRAM(ユーザグラム)」です。このツールを使ってユーザの動きを見てみると、3つのパターンがあることがわかりました。
- サイトに来てすぐに相談予約してくれる人
ガリバーで購入を決めている人なので、ガリバーであることを訴求。
- ボディタイプと初心者コンテンツのページを何度も行き来する人
おそらく自分で車を決める軸や知識がない人なので、この動きを2往復以上した人には、車探しを手伝うことを訴求。
- 車種一覧と車種絞り込みを何度も行き来する人
車を選ぶ軸が明確で、それに合うものがないか絞り込みをしていると考えられる。この動きをした人には、掲載以外の車も探すことを訴求。
ユーザごとの状況に適したコミュニケーションを実施したことで、導入してわずか半年ほどで1,500万円ほどの利益を上げることに成功しました。


数字だけでない「体験」にフォーカスしたUXグロース業務を
サービスのグロースのために細かい数字の改善をひたすら繰り返すことも重要ですが、数字での改善に執着しすぎると「ユーザ理解」がなおざりになり、顧客体験を損なうような施策に走ってしまう恐れがあります。
そこで、ユーザ理解に基づく企画・実装を回し続けられるような業務プロセスの定義と組織体制の見直しが必要です。
ビービットではUSERGRAMに加え、UXを改善しつづけ、事業をグロースさせる業務の設計から定着を強力にサポートするUXグロースコンサルティングを提供しています。
ビービットでは、コンサルティングを通じて20年間蓄積してきた知見と、世界の最新環境を取り込んだ方法論をベースに、アフターデジタル時代のUXグロース業務プロセスを支援しています。ぜひお気軽にお問い合わせください。
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ビービットは、今年9月にアフターデジタル続編、「UXグロースモデル」を出版いたしました。それに伴い、書籍の説明や、書ききれなかったUX作りのポイントについて解説するイベントを開催いたしました。
これからもUXに関するイベント・セミナーを積極的に開催していく予定です。
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