2021.07.19 Mon.

「善いUX」があふれる社会を目指して ―UXインテリジェンス協会、設立の背景

2021.07.19 Mon.

企業が「UXドリブン」な組織になることを目指す

――まず、協会発足を発表してからの反響をうかがえますか?

藤井:思った以上に、多くの企業から直接問い合わせをいただいています。今、参加企業の受け付けを準備中なので、9月をめどに整備して、順次ご案内していく予定です。

個人の方からも、とてもポジティブな反響をいただきました。Twitterなどから、期待感を持っていただいているリアクションを複数拝見して、率直にとてもうれしかったですね。まずは法人会員を募るところから始めますが、追って個人会員の募集も進めていきます。

――改めて、何をしていく協会なのかを教えてください。参加すると、どのようなメリットがあるのでしょうか?

藤井:企業や、行政などを含む団体が「UXドリブン」な組織になることを目指し、そのための活動をしていきます。大きく3つあり、2つがメイン、もうひとつはそれらを支える活動です。

ひとつ目は、法人向けの内容です。組織作りのノウハウやプロセスを体系化し、会員企業を支援していきます。これからの時代は、「よりよいUXを生み出す」ことが、競争力の源泉になっていきます。そのための組織作りや必要な職能、考え方などを、協会を通して共有していきます。

2つ目は、個人にフォーカスしています。個々のビジネスパーソンが、優れたUXを企画する技能を身に着けられるようサポートしていきます。はじめは参加企業の社員の方々への研修などから始めますが、2022年内には個人会員の制度も整備して、たとえば資格試験なども具体的にお知らせできるよう準備しています。

そして3つ目は、前述の2つを支えるための、国内外の事例研究活動です。書籍『アフターデジタル』シリーズや、先日開催したイベント「L&UX」でも、複数の事例に注目して解説したりお話を聞いたりしてきましたが、今後は日本から、協会の会員からも好例が生まれたらと思っています。

ユーザ起点で考えていくことが、なぜ重要なのか

――協会設立の背景について教えてください。

藤井:複数社から理事の方々を迎え、協会という形にしたのは、まず「世の中に優れたUXが広まる」ための活動を拡大したいという思いがあります。ただ、それ以上に、同じことを考えている方々と出会えたことが大きいです。立場や知見が異なる方々とディスカッションし、互いに研鑽していくことで、UXの重要性を普及する活動をより深めていけると考えました。

ありがたいことに書籍が多くの方々に読まれ、この数年で私もさまざまな方々とお会いし、お話しする機会に恵まれました。そうすると、お互いの考えに共感し、共鳴するようなことが本当に多かったんです。

これは、ビービットだけが「アフターデジタル時代ではUXが重要だ、UXドリブンで考えていく必要がある」と主張しているのではないのだと、背中を押された思いがしました。ユーザに支持され、ユーザの自己実現につながるような体験があふれる社会を、個社ではなく「面」で実現していければと、理事の方々と準備してきたのがこの協会です。

ゆくゆくは、理事会の議論内容も公開していこうと思っています。理事長をビービット代表の遠藤直紀が務め、副理事長に電通デジタル副社長の小林大介さんを迎えています。理事として慶應義塾大学大学院の白坂成功先生、NPO法人 人間中心設計推進機構の理事長の篠原稔和さん、ボストンコンサルティンググループの葉村真樹さん、そしてTHE GUILD代表の深津貴之さんに入っていただいています。

――協会が掲げる『「UXドリブン」な組織になること』は、なぜ必要なのでしょうか?

藤井:端的にいうと、よい体験に人が集まり、支持されていくからです。するとそこにデータが蓄積され、さらに改善していける。この好スパイラルに乗れた企業はどんどん成長し、乗れなかった企業との差がついていく。そんな状況が今、世界中で生まれています。

『アフターデジタル』シリーズを通して強調したことですが、これからは「モノを売って終わり」ではなく、ユーザの生活に寄り添って常に接点を持ち続けるような体験提供型のモデルが求められ、残っていきます。

数多く、頻度高く接点を持つメリットは、大きく2つあります。まず、行動データをベースに顧客の状況や最適なタイミングなどがわかるので、ユーザ理解の解像度が高まりますよね。それをもとに、よりよいサービスに改善していけます。

もうひとつは、それらの接点を通してユーザの困っている状況を察知して助けたり、購買意欲が高まった瞬間にアップセルやクロスセルを提案するなど、顧客との関係を深めていけます。これはビジネス成果も見込めますが、どちらかというと「ユーザの自己実現ややりたいことを助ける」といった意味合いですね。すでに成功しているサービスには、そうした姿勢が強く見受けられます。

こうしたサービスを作り上げるには、特に日本がかつて得意としてきた「モノを売る」ビジネスとは、起点も考え方も構築のプロセスもかなり違います。もちろん、企業のなかで小さく始める形は有効ですが、理想としては組織全体を「ユーザの体験から考えていける」ようにすることが重要です。そうした意味を込めて「UXドリブン」な組織を目指す、としました。

インターフェースに留まらず、環境全体を捉える

―—設立までに、理事会では具体的にどういった議論があったのですか?

藤井:特に話し合ったのは「UXをどう定義するか」ことなんです。もともとWebやアプリの‟UI/UX”といわれてきたように、インターフェースのデザインの話として広がってきたので、今もそう取られることも多いと思います。その概念をもっとずっと広く捉え、デジタルもアナログも含めて定義し直したいと考えています。

UX=ユーザ体験といっても、人によって思い描くことが全然違いますよね。そもそも、UXを提唱したドナルド・ノーマン氏の定義や、ISOでの定義、さらにヨーロッパでまとめられた「UX白書」での記述も、かなりばらつきがあります。

これらを踏まえ、また書籍で取り上げた事例なども含めて議論した結果、現時点で協会ではUXを「ある環境やシステムにおいて起きている現象」のように考えているんですね。これはどういうことかというと、今、さまざまなプロダクトやサービスにおけるユーザの体験は、とても複雑になっていることが背景にあります。

たとえばタクシー配車アプリでは、アプリのインターフェースも、ドライバーさんの対応も、ペイメントもすべてUXになります。乗客にとってその一連をスムーズにするためには、ドライバーの立場でのUXも大事ですし、別の乗客が発信者となって口コミをすると、それにも影響されるかもしれない。すると、昔のように単にプロダクトと顧客の間に注目するだけでは不十分で、複数のプレーヤーを含めて、そこで起きている全体を考える必要が出てきます。

なので、UXとは「環境全体」あるいは「生活全体」を捉え、そこでの体験をスムーズにしていくことだというのが、協会で考えている定義です。

UXIA 公式ページ:https://www.uxia.or.jp/

「UXインテリジェンス」、そして「善いUX」とは?

――協会のサイトに書かれた「設立趣意」には、「善いUX」という言葉が出てきますが、これはどういう意味でしょうか? また、そもそも「UXインテリジェンス」とは何を指しているのか、教えてください。

PURPOSE—設立趣意
より自由で豊かなUXを企画するための基盤となる「UXインテリジェンス」の普及と研鑽 「UXインテリジェンス」の浸透・向上による善いUXで溢れる社会の実現

藤井:先ほど、UXについて「環境」や「システム」という言葉を使いました。ここで注目したいのは、その環境設計によっては、悪いほうへと人を誘導してしまうこともできる、という点です。

人が自然とその行動を取ってしまうようなアプローチを、行動経済学では「ナッジ」といいます。簡単な例だと、松・竹・梅と3つの値段のうな重があると、財布が少々厳しくてもつい「竹」を選んだりする。ナッジはUX設計においても重要な概念で、うまく取り入れれば、たとえばダイエットを3日坊主にならないように促せたりもします。

ただし注意が必要で、悪意をもって取り入れると、つい自然ととってしまう行動でユーザが不利益を被ったり、企業だけが得をするようにも設計できてしまうのです。

突き詰めると、ユーザにとって極めて快適な設計をすれば、知らず知らず気持ちよく管理されることにもつながってしまう。UXは、使い方を間違うと、最強の統治術にもなり得るのです。だから、UXに携わる人には必ず、ある種の倫理観が必要です。それを「UXインテリジェンス」と表していて、UXインテリジェンスがあってこそ、ユーザがより自由で豊かな状態へと進める「善いUX」をつくれると考えています。自由という言葉も、最強の統治術の方に向かうのではなく、人々の選択肢を増やす方に向かうべきである、という意志の表れとしてあえて入れています。

――UXインテリジェンスを理解し、組織全体や自身の仕事に浸透させていくことが、「善いUX」の創出につながるということですね。

藤井:その通りです。会員の方々ともディスカッションしながら、UX企画の実践だけでなく、その根幹にある精神も研鑽していけたらと思っています。

――最後に、今後の展望をうかがえますか?

藤井:前述のように、いまだにUXが単なるインターフェースやデザインの話だと思われているので、まずはその風潮を刷新していきたいです。それらもUXのひとつですし、ビービット自体もWebやLPの改善からスタートして現在の「UX設計」に至っているので、UI/UXの重要性はよく理解しているのですが、時代はもう変わっています。早く、UX設計を「環境やシステムの設計」として広く捉えるのが当たり前の状態になるといいと思っています。

そして多くの企業が、ユーザにとっての「善いUX」を競うように考えたり、社会課題を見つけて解決したりして、ユーザがより豊かな体験や生活を享受できるようになったらいいですね。そのための表彰制度なども構想中です。

また、UXに携わる個人の方、WebやアプリのUI/UX改善に努めているような方々を応援したい意志も、協会として強く持っています。今はデジタルの細かい領域で仕事をされていたとしても、実は広くUX設計を考えるとき、その方々のユーザに向き合ってきた経験や知見は大いに役立ちますし、貴重な人材として重宝されるはずです。個人の方にも、ぜひ協会の活動に関心を持ってもらえたらと思います。

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