2019.06.26 Wed.
アフターデジタル的都市考察 テクノロジー最先端都市 中国・雄安新区訪問記
なぜ雄安新区へ行ったのか
まだまだメジャーとはいえない雄安新区という場所を初めて知ったのは、以前から購読している高城剛氏のメルマガでした。メルマガ内で、雄安新区は世界の最先端地域として紹介されていました。
”日本だと、AIとかIoTとか、ワケ知り顔の人たちが「それ風ワード」を取り上げて語っていますが、賢明な読者の皆さんは、世界の先端地域を実際に見に行った方がいいと思いますよ。肌感覚で未来がわかりますから。僕のメルマガなんて、読まなくていいので(笑)。”
AIやIoTの概要レベルは理解しているつもりですが、実際にそれらがどのようにビジネスや自分たちの生活に関わってくるのか実感が持てていなかったため、雄安新区という場所に強く惹かれ、ぜひ行ってみたいと思いました。
以前に深センへ行った際に、多くのシェアサイクル・ドローンを街中で見たり、電子部品なら何でも揃うという華北強へ行ったりしましたが、一番印象に残っているのは、街や歩いている人たちのなんとも言えない自由な雰囲気で、多くのユニコーン企業が生まれている背景がわかったような気がしました。
雄安新区に行けば、肌感覚として同じようなことが実感できるのではないかと期待し、北京行きの航空券を予約しました。
雄安新区とは?
中国・北京から南に150kmほど行った場所に、「雄安新区」という国家級新区があります。国家級新区とは、国家の重大発展と改革開放戦略の任務を受け持つ総合機能区のことで、雄安新区は、習近平政権による「深セン経済特区」、「浦東新区(上海市の地域)」に続く国家プロジェクトとして位置づけられています。
習近平政権の「千年大計」(1000年にわたる大計画)の一環として2017年に設置され、最先端のテクノロジー企業や研究機関を集積する計画のもと、中国政府が今最も開発に力を入れている地域となっています。既にアリババや百度など中国の最先端企業が進出しており、無人自動車や無人コンビニなど多くの実証実験が行われています。雄安新区は何もない田舎にゼロから作られているハイテク都市であり、第二の深センとして注目を集めています(中国国内では、政府・ビジネス関係者だけでなく、多くの観光客が雄安新区を訪れています)。
雄安新区の最新テクノロジー
北京空港に着いてから、特急列車で北京南駅へ向かいます。北京南駅から、雄安新区の最寄り駅である「白洋淀」へは通常新幹線で2時間ほどかかり、駅から市民サービスセンターへは車で15分ほどかかります(今回は 新幹線のチケットが取れなかったので在来線を乗り継ぎ4〜5時間かかりました。白洋淀駅からはトライシクルで雄安新区へ向かいます)。
今回私は、雄安新区の中の「市民サービスセンター」という場所を訪れました。ここは地域の中で最も開発が進んでいる場所で、アリババ・百度・京東など多数の中国企業が進出しています。コンビニ・スーパーから飲食店など多くの店舗があり、域内のマンションには実際に暮らしている人がいます。
市民サービスセンターへ向かう途中には建設予定地域が多数あり、まさに開発が進められていることが実感できました。
入り口にはカメラが設置されており、入ってくる自動車を画像認識して判別していました。サービスセンター内は、エリアが分かれていて、政府エリア、ビジネスエリア、生活エリア等が存在します。
市民サービスセンターは、シリコンバレーや日本のつくば市のような印象を受ける場所で、舗装された道路と共に木々などの自然が多く見られました。
地区内では、無人自動車や無人コンビニ(同行した中国人からは「京東の無人コンビニはここまで来なくても北京にもあるだろう」と言われましたが)など、最新テクノロジーが実際に運用されており、街としてここまで完成していることに驚きました。
無人コンビニでは、店外で京東のアプリをダウンロードしwechat payと紐付けることで決済が可能となります。
決済方法は単に商品を持って店の出口に行くだけで、出口で顔認証され、そのままwechat payでの決済が完了します。
それ以外にも、街自体がテクノロジーに最適化されており、道路には無人自動車が認識できる色のついた模様が敷かれていました。他にもアリババのグループ企業が運営する無人自動車を利用した宅配業者などのオフィスが見られました。
地区内にはホテルもあり、そこでも当たり前のように、無人チェックインが可能となっていました。
雄安新区は、画像認識の実験都市?
地区内では、無人自動車、無人コンビニ、ホテルの無人チェックインなど様々なテクノロジーを体験しましたが、これらのテクノロジーにはひとつの共通点があることに気が付きました。
それはほとんどのテクノロジーに、「画像認識技術」(及び顔認証)が応用されていることです。例えば、無人自動車は道路の色パターンや歩行者を画像で認識して行動を判断したり、無人コンビニであれば買い物をする人の顔を認証する事で自動決裁を可能にしています。また、雄安新区の入り口でも区域内へ入る自動車すべてを画像認識していました。
それぞれのテクノロジー単一ではなく、雄安新区を俯瞰的に見ると、雄安新区は、都市へ「画像認識技術」をビルトインするという実験を行っている場だと捉える事も出来るのではないでしょうか。
雄安新区はアフターデジタル的都市計画?
雄安新区のように都市へ画像認識技術をビルトインする事で、そこで暮らす人々の行動データを常時取得する事が可能となります。
都市が行動データを包括的に取得でき、全てが繋がったとすると、犯罪抑止はもちろん、様々な最適化、効率化によって新しい都市生活が可能になります。
例えば、どこでも顔認証が可能なので支払いそのものが自動化されて不要になったり、「この都市には20パターンの行動様式がある」と分かった場合、住む場所、職場、娯楽、飲食などを最適に配置して、自分の好きなものはいつも近くにあり、かつ余計な交通が発生しない都市を作ることも出来るはずです。
元々、都市というものはインフラであり、既に構築されたインフラの変化コストは大きいものでした。そのため、都市が持つ機能を土台として、人々の暮らしを含む経済活動が行われていました。
しかし、画像認識技術が実装された都市では、「人々や街が生み出すデータを蓄積する共通データ基盤及びそのシステム機構」を元に、都市機能の再配置、入れ替え、改善などのアップデートが可能になると考えられ、「そこで暮らす人々へ最適な空間を提供する」という都市の本来の目的を果たすことができるようになります。
ビービットで提唱している「アフターデジタル」の考え方になぞらえると、雄安新区のような新しい都市の取り組みは、これまで固定インフラとしての側面が強かった「OS」としての都市を機能別に分解し、「デジタルプラットフォーム上にあるアプリケーション」と捉える、アフターデジタル型都市設計と言えるかもしれません。あくまで仮説ではありますが、この場合、OSとなるのは「人々や街が生み出すデータと、それを蓄積する共通データ基盤及びそのシステム機構」であって、都市機能は無人コンビニや無人デリバリーといった様々な機能を常時入れ替えたり、改善したり、最適配置したりすることができるものとなっていくのではないでしょうか。
都市での暮らしは変わらない?
ここまでテクノロジーや都市のあり方の変化について話をしてきましたが、私が意外だと感じたのは、地区内に本屋(紙の本を売っている)やお茶の専門店などいわゆるアナログ的な店も多く出店されていることでした。これだけハイテク都市なのに本屋があるというのは、テクノロジーによってビジネスの形態が変わっても、そこで生活する人々が本来的に求めることは(少なくとも今のテクノロジーの延長線では)そこまで変わらないことを意味しているのではないでしょうか。
コンビニでの接客やデリバリーなどの業務は人からテクノロジーに代替されていくと思いますが、人々が暮らしに求めるものは、本質的には変わらないように感じました。デジタルという文脈だと、AIやIoTといったテクノロジーが注目されがちですが、「そこで暮らす人々が何を求めているのか」が引き続きビジネスの起点となっていくのだろうと思いました。
雄安新区の今後
北京からの列車移動の際、こんな田舎に本当にハイテク都市があるのかなと感じたほど、まだまだ未発展の地域ではありますが、実際に居住可能な都市となっていることには驚かされました。そこには、これから更に開発を進めていくという中国政府の気概のようなものが感じられました。また、北京・天津・雄安という3つの都市を結んだ地域(東京から富士山までの距離ほどある地域)を国家級新区として開発するというスケールの大きさは、中国以外には真似ができないものではないでしょうか。今後も、雄安新区に関しては引き続きウォッチしていきたいと考えています。
Newsletterのご案内
UXやビジネス、マーケティング、カルチャーに関して、事例や方法論などアフターデジタルのさらに先をCCO藤井保文が書く、ここだけでしか読めない書き下ろしニュースレターを毎週1回お届け。
アフターデジタルキャンプをはじめとするイベント情報や新着投稿もお知らせします。